音色10




 2人だけになった病室。

 フワリ…と、不意にあたしを包んだ体温。



(…涼ちゃん?)



 あたしの肩に顔を埋めるようにして、そっと抱きついている。


 ほんのり香る香水の匂いと、若干混じる汗の匂い…。

 きっと今日も色々忙しかったんだろう。そんな中会いに来てくれたんだと思うと、ジンワリと嬉しさが込み上げた。


 あたしはそっと、涼ちゃんの髪を、疲れているだろう背中を、撫でてみた。すると黙ったまま、ゆっくりと彼が動いて…







一舞
「…………」



「…………」



(………え?)




 きっと今、あたしは凄く間抜けな顔をしているんだろうと思う。

 涼ちゃんは気にしてもいない様子で静かにため息をついて、再びあたしの肩に顔を埋めた。




(…………え?…え?)




 今あたしの唇に触れた感覚は、いったい何だったんですか?と改めて聞くのはとても恥ずかしい。それを彼は信じられないくらい自然にやってのけたのだ。


 あたし達の…初めてのキスを…。





(……え〜…?)


 なんでそんな普通にできちゃうの?てか手を握るだけで照れてた涼ちゃんはどこ?なんて、今更な驚きが脳内を駆け巡る。

 いや確かに、元サヤになったあの日、涼ちゃんは言ってたよ。前とは違うって。でもまさかこういうことだったとは……マジで考えていませんでしたごめんなさい。


(………わぁ…)



 院内に流れる面会時間終了のアナウンス。肩に埋もれたままの涼ちゃんの顔。間の抜けた感情がかき消せないあたし。



(…ここからどうすれば……)



 それはいつしか困惑の感情に支配され、涼ちゃんの背中に置いたままの手は行き場を無くしていた。







「………好きだよ」

一舞
「!……」


「…心配で、心臓が千切れるかと思った」



 耳元でそっと、搾り出すように囁かれた言葉。



 あたしはそれに、応えることができなかった…。






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