音色9



―PM7:56[病室]――――――――――――――side 一舞


 みんなが病室に来てくれて数時間。

 窓の外はすっかり暗くなって、そろそろ面会時間が終わろうとしていた。



一舞
「それにしてもびっくりしたよー。蓮ちゃんと涼ちゃんの第一声」


「……」


「……」


「かずまぁ〜!心配したんだぞ〜!って?」


「俺はそんな言い方…!」

香澄
「2人していきなり抱きつくわ、すぐさま睨み合うわ、ライバルかっつの」

美樹
「強ち間違ってないんじゃない?ふふっ」


「一番必死だったのはユッキーだけどな」


「未だに一舞を返してもらえない…」


「あんなに号泣しながら飛びつかれたんじゃ誰も怒れないっすね」


 そうなのだ。

 夕方にみんなで来てくれて以来、由紀ちゃんはずっと、あたしの傍らであたしの手を握ったまま泣き崩れている。

 こんなに心配させてしまったことはなんだか申し訳ないけど、このフルフルと震える小柄な彼女を見ていると凄く癒されるわけで…。


一舞
「…由紀ちゃん可愛いなぁ」


 なんて、心の声が漏れてしまったり。



「…とにかく…思っていたより元気そうで安心した」

香澄
「てか一舞は病人なんだから、男子は少し遠慮しなさいよねー。ダメじゃん!いきなり抱きつくとかいきなり抱きつくとかー」


「…うるせーなチビ」


「仕方ねーだろ…」


「ふははっ!まぁ大人数で押しかけるもんじゃないよね。つかビックリさせんなって話だけど」

一舞
「ふふっ、ごめんねビックリさせて。あたしも実はビックリしたんだけど。あ、由紀ちゃん?もう平気?」

由紀
「ぐすっ…はい…ご…めんなさい…」

一舞
「心配してくれてありがとう。嬉しいよ」


 涙で濡れた目元を擦りながらゆっくりと顔を上げた由紀ちゃんは、半泣き顔のまま微笑んだ。

 そっと涙を拭いてあげながらあたしの胸には、このままみんなと帰りたい気持ちが込み上げてくる。


美樹
「そろそろ面会時間も終わるわね…一舞の顔も見れたし、帰りましょうか」


 そんな美樹ちゃんの言葉に


一舞
「う〜…あたしも一緒に帰りたいなぁ」


 つい口が滑った。


美樹
「ダメよ。この際しっかり体を休めないと」


 ピシャリと却下されたあたしの望み。でも美樹ちゃんはまるで、母親のように優しい顔で微笑んでいる。そんな表情をされると、寂しさも和らぐ。


一舞
「はぁいママ。ふふっ」

美樹
「いい子ね〜。ふふふっ」


「……」


「……」


「萌え…」


「何プレイっすか?」

香澄
「つーかそこの約二名。無言で萌えんなっつの」


 それにしても、蓮ちゃんがあんなに心配してくれてたなんて意外だったなぁ…。

 チラリとその顔を窺うと、居心地悪そうにそっぽを向いてしまうから余計に可笑しい。



「…つーかちょっとは気ぃ使ってくれねーかな」


 みんなが落ち着いたあたりで、涼ちゃんはしびれを切らしたように言った。



「……仕方ないな…先に帰るぞ」


「はいは〜い」


「んじゃ部長。俺ら先行ってますんで」


「うっせー早く行け」



(ふふっ、涼ちゃん、耳が赤いっすよ)



美樹
「じゃあね一舞。明日メールする」

一舞
「うん。ばいばい」

香澄
「一舞おやすみ。てか涼ちゃん、ここ病院だからね」


「わかってるっつの!」

一舞
「香澄、由紀ちゃん、綾も、みんなありがとね。おやすみー」



 こちらに向かって手を振りながら、ぞろぞろと病室から出ていくみんなを見送って、個室内は涼ちゃんとあたし2人だけになった。




(はぁ…嬉しかったけど、嵐みたいだったな…)



 心地いい疲れを感じながら、自分の頬が綻んでいるのを感じていた。




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