音色8



―PM6:23[藍原邸]――――――――――side 翔


??
「しょ〜ぉ〜」


「………」



 マッタリと。まるで自分の家のように俺の部屋に上がり込んできたのは…

 浅葱 透瑠。一応幼なじみ。

 艶のたりない銀髪を揺らして、まだレポートが完成せず机に向かう俺の後ろから抱きついてきた。



「気持ち悪いから離れろ」

透瑠
「俺は気持ちいいんだけどなぁ、翔の髪サラサラだし」


「……」

透瑠
「あ!今ゾワゾワ〜!ってキタ?スゴーい!俺にまで伝わってきたぁ〜あはははっ」


「………!」

透瑠
「おぉっとー!ダメダメぇ、翔の力で殴られたら俺、死んじゃうからぁ〜」


 どうにか引きはがしてやろうと勢いよく腕を振り上げると、ヘラヘラ笑いながら透瑠は飛び退いた。



「…そんだけニヤけてりゃ平気だろ?」

透瑠
「無理無理。ところで涼が店にいないんだけど知らない?」


 ヘラヘラしていた表情を途端に通常に戻し、話題を変えて問いかけてきたが…さてどこから説明するべきか。



「…病院に行った」

透瑠
「…病院?……アイツどっか悪かったっけ?」


「違う。 涼の女が入院したんだよ」

透瑠
「は? アイツ女いたの?」


 薄ら笑いで驚いている、涼の実兄であるはずの透瑠。

 俺なんか目じゃないくらいの飄々とした物腰。虚弱体質で線の細い体格。家系なのか、中性的な顔立ち。

 ガキの頃から一緒にいるし、お互いにお互いの色々な過去も共有してる。言ってしまえば家族みたいなものなんだが…今のコイツの表情を見るに、情報の全出しは少々まずい。


透瑠
「ねっねっどんな女?可愛い?」


 ある時期から、涼は透瑠に自分の彼女を紹介しなくなった。

 以前は色々な恋愛の相談もしていた様子だったが、それすら無くなったのは、透瑠が無類の女好きだからだ。

 涼は透瑠に知られたくないのだ。それを本人もわかっていながら、こんな質問をしてくる。



「…さぁな」

透瑠
「へぇ〜、アイツ彼女いたんだぁ〜。見てみたいなぁ、涼ちゃんの彼女」


「………てかお前マジで手ぇ出すからな。無理なんじゃねえの?」

透瑠
「あははっ、そんなこと言って〜、俺ばっか女好きキャラにしないでよね〜。昔は翔だって凄かったんだからさぁ」


「…昔はな。でも俺は他人の女には手ぇ出したことねーし。…って、んなことより暇ならコレ手伝え」

透瑠
「あ、無理無理。ワタシ音大。アナタ教育大。畑違いナノヨ」


「なら出てけ。邪魔」




 べぇ〜…っと舌を出して部屋を出て行く透瑠を見送りながら、ほんの少し。


 頭の片隅で…一舞がどうしてるのか…気になっていた。





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