音色3



―AM7:30[病院]―――――――――side 一舞



(退屈だなぁ〜…)



 入院している…とは言っても、たくさん眠ったから、自分ではすっかり元気なつもり。

 熱もすっかり下がってるし、食欲もあるし、動けるし…っていうか朝からこんなにゆっくりと時間を使うのって、慣れないからどうしていいかわかんない。


 退屈に耐えかねてジッとしていられないあたしは、先ほど食べ終わった朝食のお膳を片付けるついでに、パパが持ってきてくれたカーディガンを着て、屋上に向かおうとベッドを出た。


 ゆっくりと院内を散策してから、通り道にあったエレベーターで屋上へ。

 外に出て早々に大きく深呼吸すると、なんだかとても爽快な気分になった。


(…そろそろ由紀ちゃんが登校してくる時間かな)


 そういえば倒れたのがいきなりだったから、この状況を知っている人がどのくらいいるのか不安だ。由紀ちゃんならきっと、あたしが入院したなんて聞いたら、ものすごく心配してくれるんだろうな…。


(…メールしとこうかな)


 ふと由紀ちゃんの泣きそうな顔を思い出して、ポケットの携帯に手をのばす。


 赤系のストーンで香澄にデコってもらったお気に入りのケータイ。それを開こうとポケットから取り出した瞬間、最近よく聴く着信音が響いた。



(翔から…?)



 開いた画面には『後で涼がそっち行く』という、いつも通りの一行メール。



一舞
「…」

(…涼ちゃんにも知らせてくれたんだ?)


 なんだろう。とってもありがたいというか、意外というか。

 なんだか翔って、よく気がつくというか、頼れるというか、こんなこともしてくれるんだ…と、なんともいえない気持ちになった。



 つい数日前までは知らなかったこの頼もしさ。べつに、翔という人を特定のイメージを持って見てたわけじゃないけど……友達?みたいな感覚で付き合っていてもいいのかな…って、少し安心した。


 メール画面を見ながらそんな事を考えていたら、今度は電話の着信音が鳴った。



一舞
「あ」


(涼ちゃんだ)


一舞
「もしもし涼ちゃん?」


『…うん、おはよう』

一舞
「おはよー」


『…大丈夫?』

一舞
「うん。ごめんね…電話出られなかったから心配したよね…」


『…うん、いや、ごめん…知らなくて』

一舞
「えっ?ううん、だって急だったし…」


 電話の向こうの涼ちゃんは、少し落ち込んだ声で何度も『ごめん』を繰り返した。


 そんなの全然、涼ちゃんが謝るようなことじゃないのに…。変に気を使わせているみたいだ。

 それでも夕方にはお見舞いに来てくれるって言ってたから、話終えるとすぐ病室に戻った。

 夕方って言ってたんだから急ぐこともないんだけど。なんだか落ち着かなくって、階段をいつもの調子で駆け下りたら少々息切れを起こしてしまった。

 たった一晩寝込んだだけなのに、ずいぶん弱っているみたい。

 自分の病室にたどり着き、ベッドに横になってようやく…自分が病人であることを少し、理解した。




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