弓弦10




 体が言うことをきかないって経験は初めてだ。

 結局、立ち上がることも出来ないので、いまだ、翔の部屋で休ませてもらっているところ。

 翔はまだ残っているはずのレポートを放り出したまま、あたしの横であたしの様子をうかがっている。



一舞
「…レポート」



 そう言って机を指差しても…




「できるか」



 この通り。意外にも心配性だ。…優しいじゃん。



(でも…)



一舞
「…時間無いんじゃないの?」


「………」



 あら…黙っちゃった。



一舞
「…お願いだから…レポート…やってよ」


「……お前が大丈夫ならやる」


 そう言って頭を掻き、そっぽを向いてしまった翔を見ていると、なんだかとても申し訳なくなってしまった。


一舞
「…わかった…帰る」


 居たたまれずそう言って、立ち上がろうとしたんだけど…








      バタッ…






一舞
「っ………たぁ〜…」



(…あぁ……ダメだ)



 一瞬、目の前が真っ暗になったものだから、途端に心が折れてしまった。



「は?なんだそれ!?おいっ一舞!」



 驚いた翔が慌ててあたしの体を揺する。


一舞
「…だいじょ〜ぶ〜」


 揺さぶられるのが嫌で、翔の手を払った。




 倒れた状態のまま動けない。

 視界はグルグル回って、上も下もわからない。

 なんか凄く寒い気がして、歯がガタガタ震えて噛み合わない。



(…あー……ヤバいかも)




 そのまま目を閉じると…


 トリップしそうなだるさが、全身に満ちていた…
















一舞
「………?」



(車の音…?)





 また眠っていたんだろうか?気がつくと車に乗せられていた。

 なんとか頭を起こして状況を確認すると、運転席には金色の髪が揺れて、夜の灯りに照らされている。


(…なんで?)


 起き上がることもできずに、ただ走る車の振動に身を任せることしかできず、再び目の前が暗くなっていった…。









 暗闇の中で考えていたのは…翔が意外に優しかったってこと。



一舞
「うん。…あたしも翔…嫌いじゃねーわ」



 もしかしたら、声になって出ていたかもしれない。



「くだらねー事言ってんなバーカ」



 翔の…そんな声が返ってきた気がした。





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