弓弦7




一舞
「そんなこと気にしてなんかないもん!」


 カーッと熱くなる顔と恥ずかしさで脈打つ心臓の勢いが重なって、自分が思うよりも大きな声が出たみたい。


 あたしの反論の声に、翔さんの目が大きく見開いた。体も少し後ずさっているところを見ると、かなり驚いているようだ。



「……声…でけーなぁ…」


 ポツリと呟きながら、体制を戻している。



(………はっ!)



一舞
「しっ、翔さんが変なこと言うからでしょ!」


「べつに、普通あんな言い方されたらそう思うだろ」

一舞
「うっ…う〜っでも!そういうことじゃなくて!」


「…何だよ?俺をばい菌扱いでもしてんのか?」

一舞
「そっ…そういうわけじゃないけど…」


「まぁ…嫌ならいいけどな。涼に恨まれそうだし」

一舞
「うっ…」


 確かに今この状況を一部始終、涼ちゃんに見られたとしたら…きっとまた誤解しちゃうかもしれない。


(…てか下に居るし)



一舞
「…翔さん」


「《さん》とか要らね」

一舞
「…翔くん?」


「やだ」



(やだって何だよ!?)



一舞
「じゃあ、翔」


「…よしよし」

一舞
「!!」



 突然 頭を撫でられ、体がビクついた。



「俺、女から敬称で呼ばれるの嫌なんだよね。あと敬語もめんどくせ」

一舞
「…あ…あぁ、そうなんだ」


 なんだか今日のこの人は、妙に疲れる…。

 頭に触れていた大きな手が離れた瞬間に、なんだかグッタリしてしまった。



「…で?何?」


 箸を置いて、改まって聞き返してくる…翔…は、なんだか機嫌が良さそうだけど…あまりワクワクした表情をされるととても話しにくいのですよね。


一舞
「実はね?…下の階に涼ちゃんが来てて…」


「……」

一舞
「でも今日はちょっと、顔合わせたくないんだ…」


「…なんだ…喧嘩か?」

一舞
「ううん、仲良しだけど…ちょっ…と…」


「…は?」

一舞
「…」


 意味が分からん!という雰囲気で、思いっきり表情を歪めるこの人は、いったい誰なんでしょうか?



「…まぁいいや。…それで?どうしたいんだよ」

一舞
「だから…涼ちゃんが居なくなるまでこの部屋に居てもいいかな?…っていう…」


「………………」


 不思議そうに。無表情だと思っていたその顔が、本当に不思議そうにあたしをジィーっとみている。



(…やっぱダメかなぁ)



 と、諦めモードになったその時。




「べつにいいけど…理由聞かせろよ」

一舞
「……………………」



(…はぁ)



(今日は本当によく喋るなこの人…)





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