弓弦6




 数分後。ほんの少し血色が良くなった翔さんが、突然あたしに向かってこう言った。




「お前は食わないのか?」

一舞
「え?」



 あんまり唐突に話しかけてくるから、間抜けな声が出てしまった。




「…ほら」



 そう言って容器ごとこちらに差し出すけど。



一舞
「…翔さんの分しか持ってきてないし」



「…………」




 っていうか…自分の食事のことなんて、すっかり頭から抜け落ちていたようだ。言われて急にお腹が減った気がしてくる。





「………」




 口をモグモグさせながら、あたしの顔と肉じゃがを交互に見る。そして…





「んっ」

一舞
「…………」



 あたしに向かって突き出されたのは、箸に刺さったジャガイモ…。



(…はっ!)



一舞
「いっ、いやいやいやっ!いいッスよ!」



 両手と首をブルブル横に振って、なんだか大げさなリアクションになってしまった。

 翔さんは無言で、行き先の無くなったジャガイモを自分の口に放り込む。



(いきなりだし、予測してなかったからビックリした。っていうか…そもそもその箸では無理でしょ…)




翔「…食ってる横で、黙って見てられんのも…なんだかなぁ」



 困り果てたあたしをよそに、ボソッと呟いて。でも、手は止めず。バクバクと食事は続いている。



(…う〜ん、まぁ確かに翔さんの言う通りなんだけど)



 こういう場合ってどうしたらいいんだろうか?




「てか飯食ってから来たのか?」

一舞
「!えっ…と……食べてない…ですね」



 急な質問に、つい正直に答えてしまった。




「………」

一舞
「…………」



 しばし沈黙のあと。マズいなぁ…なんて後悔しているあたしの目の前に…



「やっぱ食え」


 再びジャガイモ。


一舞
「だからさぁ」


 ちょっと面倒になってしまったあたしはつい、ジャガイモが刺さった箸を奪い取り…


一舞
「この箸じゃ嫌」


 と言ってしまった。


 すると翔さんは、今まで見たことのないマヌケな顔であたしを見て「プッ」と小さく吹き出した。



「かぁわいっ。間接キスとか気にするんだな」


一舞
「!!!」



 半笑いでそう言われて、あたしの顔は急激に熱くなった。






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