歌声7 その後、見知らぬ若手のバンドが何組もステージに登場し、そのたびステージの周りでそそくさと動きまわるバンド部員の姿が目に留まった。 あたしはその光景を、カウンター席からまったり眺め、蚊帳の外ってこんな感じなのかと少し寂しい気持ちになりながら、綾が出してくれたコーヒーをすすっている。 時刻は深夜11時を過ぎる頃。 全てのバンドが出払ったあと、客席がざわめき、機械を通した涼ちゃんの声が薄暗い店内に響いた。 その声は場内を煽り、再び盛り上げる。 ざわめきが黄色い歓声に変わった瞬間、鼓膜を激しくふるわせるギターの音がアンプから飛び出した。 ライトアップされたステージ上。 センターには翔さん。 (寝癖頭じゃなくなってる…。ヨレヨレのTシャツでもない…) でも衣装と言うよりはかなり普段着…。 長いブロンドの前髪から覗く青い瞳は、いつものボンヤリ目線なのに…纏う空気が違う。 「翔ー!!」 「会いたかったー!」 黄色い歓声は、翔さんにばかり向けられる。 けたたましく鳴り響くギターの音。スポットライトを浴びた翔さん。 まだ歌い出す様子も見せず、けして広くはないステージをゆっくり…右に、左に…ギターを鳴らしながら歩きまわり…弾くのを止めたかと思うと、ピックを持った右手をこちらに向けてかざした。 一舞 「!?…う?」 明らかにあたしを指差している。 多少の距離はあるけど、目が合ったのがわかる。 驚いて、自分を指差したまま固まるあたしを確認した翔さんは… ![]() 微かに微笑んだ。 一舞 「!! 笑った!?」 あたしの声を掻き消すように激しくギターをかき鳴らし、ライブがスタート。 激しいリズムの中流れてきたメロディー…。 翔さんの…初めて聴く、その歌声…。 自分の中に湧き上がる感情を分析できないまま、あたしの目と耳は…その音と光から離れなくなっていた…。 Novel☆top← 書斎← Home← |