歌声2





 一応あたしは女子だけど。それほどか弱いわけでもないし、一般的女子よりは腕力とかも強い方なんだけど。

 てか、そこいらの男なんかには負けないだけの自信はあるんですけど。




 まるで歯が立たない。…っていうの?




 べつに乱暴に連れ去られた訳じゃないから、それに対して恐怖とかは感じてなくて。

 ただ、振り返ると同時に、翔さんの腕に体をスルッと掬われる感じで持っていかれて…一応抵抗したんだけど、涼しい顔して凄い力なわけで…。


 痛くも痒くもないソフトな物腰であたしの腰にまわされた手は、まったくびくともしないっていう。

 絵面はまるで、優しくエスコートされてるような…そんな雰囲気。そしてそのままサラッと車に乗せられて…無言のまま、目を丸くして絶句するあたしと、終始無表情の翔さんの車は走り出した。





……………



………



……




 住宅街を抜ける頃。

 静かだった車内に、翔さんの声が柔らかく響いた。




「お前…涼や照とバンドやってたんだよな?」

一舞
「……え…まぁ…それなりに?」


「…あの頃はもっとチビで男みたいだったよな」

一舞
「…?」


(ん?)


一舞
「…会ったことありましたっけ?」



 翔さんの発言に少し驚いて、返した声が若干大きくなったかもしれない。


 確かに当時は、涼ちゃんや照ちゃんと一緒にバンド組んで、ライブとかもしてたし。

 確かにあの頃は、髪も短かったしチビだったし、メイクもしなかったから、男の子にも見えたと思う。

 名前も男名前だしってことで、ふざけたノリで、ステージでは男の子の振りをしていた。



 …だけど。翔さんに会った記憶は無い。





『会ったことありましたっけ?』


 あたしの間抜けな問いに答えることなく、翔さんはまた無言になった。

 あたしの中の不思議は解けないまま…街の灯りをただ見送りながら。

 こんな絡みづらい人と関わらなきゃならない、自分の不幸を呪いながら。


 いつしか見覚えのある景色に辿り着いた。




 市街地から少し脇道に入ってすぐ辺り。程ほどにスペースをとった駐車場。

 昔より小さく見えるその場所は、ピンクのネオンで《CLUB Junior Sweet》と掲げられている。



一舞
「…ここって」


「……」


 くわえ煙草で車から降りてきた翔さんは、何も言わず、ポンっとあたしの肩をひとつ叩いて、先に店内へ入って行った。



 まるで自分の家に帰るかのように…。




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