歌声1 結局、由紀ちゃんの手助けは間に合わず。時刻は夜8時を回った。 バンド部はこれからライブハウスでの仕事、由紀ちゃんは門限があるってことで。あたし以外のみんなは引き上げることになった。 仕方なく1人で最後の後片付けをしていると、この家の主がようやく二階から降りてきた。そして、あたしに向かって一言。 翔 「飯」 一舞 「…そこにおにぎりあるでしょ?」 翔 「……朝からガタガタと…何やってたんだ?」 一舞 「大掃除ですよ〜」 そう答えたあたしから窓の方に目線を移し…納得したのか、無言でおにぎりを頬張り始める。 それ以上の会話は無いと理解して、あたしも片付けに戻った。 これが二度目の対面だと、いったい誰が思うだろうか。 (…よくわかんない人) それでも、ちゃんと食事を要求してくれて安心した。 いつ食べてるのかもわからなかったし、作ったものを捨てられてる可能性も感じてたから…。 一舞 「………?」 ふと、視線を感じて振り返る。 一舞 「!!?」 振り返ると、青い瞳がこちらを見ていた。 一舞 「……なんすか?」 翔 「………」 あたしの問いに答える気があるのか無いのか、モグモグとおにぎりを食しながら、ただ目線はそのまま…沈黙が続いた。 数分後。 お腹が満たされたのか彼の手はタバコを取り出した。 ずっと目線を外してもらえず、とってもやりにくい中なんとか片付けを終えたあたしは、帰り支度を始めていた。 荷物をまとめて帰ろうとした時。 翔 「じゃ、行くか」 一舞 「…?」 (…もしかして、あたしに言ってる?) 一舞 「は?」 翔 「ちょっと付き合え」 一舞 「……」 (…やっぱりあたしに言ってるんですね) 一舞 「…なんで?てか帰るし」 とにかく、付き合う理由も無いので普通に玄関に向かおうとする。 ていうかまず、彼の言葉は唐突すぎて意味が分からない。 彼…翔さんは、そんなあたしを引き止める素振りもなく、ゆっくり煙を吐きながら、ジャラジャラとポケットから鍵らしき束を取り出している様子…。 あたしは気にしないようにしながら、そのまま速度を落とさず出口に向かう。 背後から翔さんがついて来るのがわかって、その異質さにちょっとだけ恐怖感を感じながら…玄関扉を開け、あいさつをしようと振り返った。 その瞬間。 (!!!!) 拉致られてしまった! (なにこれ!!?) Novel☆top← 書斎← Home← |