感情3





 とは言え。いまいち感情が追いついてくれなくて、確かめるように涼ちゃんを見つめた。


(っていうか全然、目線を合わせてくれないから心配になるんだよね…)



一舞
「………」


 ただ黙って、逸らされた目線を追うように、彼の顔を覗き込む。



一舞
「…あ」



(赤い…?)



 長い髪で隠れて見えなかったけど、涼ちゃんの顔はちょっと赤くなっている。




一舞
「…あの……」


「見んなバーカ!」

一舞
「はっ?バカってこと無いでしょー!?」


「空気読めよ天然!」

一舞
「はぁー!?」


(そこでキレる意味がわかんないし!)



 必死に片手で顔を隠そうとしているけど、あたしの手を離そうとしないあたり、嫌がられているわけでは無さそうだ。




「……」

一舞
「……」

(…まったく、ほんと、よくわかんないなぁ)



 なんだか可笑しくなってくるけど、とりあえず笑いは堪えて。仕方ないから見ないでおいてあげようと、あたしはワザとそっぽを向いた。




「……」

一舞
「…許してもらえないと思ってたんだ」


「…俺も。許すとか許さないとか、考えたくねーと思ってた」

一舞
「………」


「……でも…こう…間近で向き合っちゃうとさ」

一舞
「………」


「…やっぱ……気持ちは簡単に変えられねーな…って」

一舞
「………?」


 『気持ちは簡単には変えられない…』その言葉に反応するみたいに、涼ちゃんの方へ振り向くと…彼は伏し目がちにあたしの方を見ていた。


 その優しい眼差しに、少し安心していたら…



「……リセット」

一舞
「……」



 照れくさそうな声色で発せられた呟きと同時に、彼の指があたしの指に絡んだ。



(あ…この感じ、なんか幸せ…かも)





















 気分は幸せなんだけど…さっきまでの緊張のせいか2人共、立っていることに疲れて腰を下ろした。

 授業をサボってるとか、とりあえず無視して。繋いだ手はそのままで、壁にもたれる。





「…言っとくけど、昔とは違うからな?」

一舞
「…何が?」


「何が…って…」

一舞
「…?」


「……」

一舞
「……」


「………困るから黙るなよ」

一舞
「待ってるだけだよ。てか、涼ちゃんから振った話なのに困らないでよ」


「いや…お前は変わんねーなと思ったら、具体的には言えねーなと…」

一舞
「…ますますわかんないし」


「察しろよ…二年も経ってんだから、付き合い方も成長が必要ってことだろ?」

一舞
「なんで最後にクエスチョン?」


「だから、大丈夫?って意味で」

一舞
「……そう言われると不安」


「なんだと!?」

一舞
「あははっうそうそ、たぶん大丈夫」


「たぶんって何だよ」




 まるで昔に戻ったみたいに、あたし達の間を流れる空気が和んでいく。



(嬉し…)




「…意地張ってたのが馬鹿みたいだな」

一舞
「あたしはいつでも素直だよ」


「天然だからな」

一舞
「うっさいな」


「……」

一舞
「……」


「…今度は、頑張ろうな」

一舞
「……うん」




 今度は頑張ろう…


 次は頑張ろう…




 今度こそ、この手を離したりしない。






 そう言いながら、強く握られる手…負けないくらいの気持ちで、握り返した…。






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