歪曲11 ――――――――――――side 蓮 由紀 「一舞ちゃん…大丈夫でしょうか…」 事件から数時間後。 店へと向かう道すがら、傍らを歩く由紀がポツリと不安を漏らした。 蓮 「…大丈夫ではなさそうだが、解決できない問題でもないだろ」 由紀 「そうですね…早く解決できるように、お手伝いしなくては…」 蓮 「…」 一舞の証言だけしか無い状態では、実際に何がどうなっているのかなんて推測でしか判断できないが… あの写真に写っていた二人は、どちらも本人で間違い無いらしい。 更には、先ほど可能性として浮かんだ写真事件の容疑者。 ”めぐみ”とは、いつもPAブースで仕事をしている女だったか。 俺は会話すらしたことも無い相手だ。そして、涼との関係があったかのかどうかも定かでは無い相手。 現在わかっている情報があまりにも少ないせいで判断が難しいが、出身中学が俺達と同じだったという事実には驚いた。 中学時代、あんな女が身近に居たという記憶が無いからな。 蓮 「……それにしても、あの時俺を呼び出してくれて助かった。お前からの連絡が無ければ一舞はそれこそどうなっていたかわからない」 由紀 「い、いえ、わたしは、あの時とても不安だっただけで…すみません」 蓮 「何故謝る?助かったと言っているだろ…だが、俺が急用で使われてやるなど、お前からの要請以外には無いことだからな。ちゃんと感謝しろ」 由紀 「はい…ふふ、ありがとうございます」 蓮 「…ふっ」 漸く微笑んではくれたが…由紀の表情からは、俺の言葉に対する安堵の雰囲気と、それでも拭えない一舞への心配が垣間見える。 あまり無茶をし過ぎないよう、俺も気を付けてやらなければと、そう感じざるを得ない表情だ。 昼休み終了の合図と共に震えだした俺の携帯電話。 由紀の咄嗟の判断により、救援の要請が届いた。 あの場でそんな機転が回るとは驚いたが、おかげでたまたま居合わせた涼にも知らせることができたし、一舞を無事に保護することもできた。 あのまま何も知らずにいたらと思うとゾッとするが、なんとかあの場を治める事は出来たし、一舞の胸の内を聞き出す事も出来て、謎めいた彼是に一筋の光も見出せたから、それは良かったと思う。 だが困った事に、今の一舞の中には不安と迷いしか見受けられないんだ。 いったいどうしてやればいい? 解せないのは透瑠さんの行動だ。 翔さんの代わりだとか、もう翔さんは一舞には会えないだとか、いったいどういう経緯でそうなった? 一晩同じ屋根の下に居て、一舞に指一本触れなかったどころか、別の部屋にそれぞれ籠って、真面な会話一つしなかったというのもよくわからない。 初対面の女を口説き倒し、公衆の面前でもお構い無しに速攻で手を出すような人が…だ。 いったい何を考えている?何故あいつをあんなにも惑わせる? 必死に自分を保とうとしているんだと思っていたから今まで触れずにきたのに、最早それすら無理な状態だったとは…。 蓮 「…む!?」 由紀 「え?」 蓮 「…いや。電話だ」 由紀 「…?」 蓮 「……」 ポケットから携帯電話を取り出しディスプレイを確認すれば其処には美樹の名前。 最近は度々かかってくる事もあるとはいえ、珍しいことには変わりない。 いったい何だ?涼との話し合いが上手くいっていないのか? 蓮 「どうした」 美樹 『涼から懺悔聞いたよ』 蓮 「…で?」 美樹 『めぐみとも関係はあったって』 蓮 「…そうか」 美樹 『だから、ここから涼が何か行動を起こすのはまずいから、アンタに頑張ってもらいたいんだけど』 蓮 「何故だ」 美樹 『涼じゃだめだからよ』 蓮 「だから何故、俺なんだと聞いている」 美樹 『めぐみと直接関わって無い人間なんてアンタしかいないでしょ』 蓮 「…何故そう言い切れる?俺だって」 美樹 『あり得ないわよ。めぐがあんたの射程圏内だとは思えないし、話してるところも見た事ないもの』 蓮 「…」 さすがと言うべきか。これだから美樹は苦手だ。 昔のように少々抜けているくらいが丁度良かった。 蓮 「…わかったよ。で?何をさせようって言うんだ」 美樹 『うん。あのね』 こいつとこんなにも長い会話をする事などもう無いと思っていたんだがな…人生とはわからないものだ。 Novel☆top← 書斎← Home← |