歪曲8




祐弥
「美樹ちゃん先輩到着ですー」


 祐弥くんに誘導されて、美樹ちゃんが部室へ到着。

 進路の件で職員室に居たためすぐには来られなかったらしいけど…



美樹
「涼の”元お相手”なら、だいたい顔覚えてるわよ」



 遅れて参戦の美樹ちゃんのその一言で、涼ちゃんの表情がピシリと強張った。

 どうやら、あたしが此処に居ない間の話をしているようだけど、あまり良い思い出ではなさそうだ。



「…で?お前こん中からどいつがやりそうかわかる?」

美樹
「さすがに名前だけじゃね…でも、怨みつらみの類で言うならたぶん二年生が怪しいと思うわ」

香澄
「まじで!?」

由紀
「!」

美樹
「だって同学年の子たちは涼よりも蓮って感じだし、すぐ下の二年の子たちは、一舞が入ってきた辺りでスッパリ切られているでしょう?きっとショックだったと思うわ」


「…」


「だよねー。”涼はみんなのモノ”的な空気あったもんねー」


「…」

香澄
「さいてー」


「…もう時効にしてくんねぇ?」


「ふっ、なるわけが無いな。こうして被害が出ている以上、もっとぶっちゃけろ」


「笑ってんじゃねーよクソが」


 蓮ちゃんがここぞとばかりに涼ちゃんに向かって黒笑いを向ける。


(なるほど…香澄が言ってたのはこの事だったのね…)


 昔の、あたしが知っていた涼ちゃんとは違うという言葉の意味が、此処に来てようやく理解出来た。

 今のあたしにとってはそれほど問題では無いのだし、隠さずにこうして協力してくれているのだから大人しく見守っていよう。

 二年生で、あたしが此処に入学した段階で、涼ちゃんから切られた過去のお相手。容疑者候補はそこに的を絞るようだ。


 それにしてもさすがは美樹ちゃん。

 涼ちゃんに関する情報で、美樹ちゃんよりも詳細に其れを答えられる人は居ないのだろうと思うと、この二人の関係は本当に貴重で凄いもののように感じる。


(……あれ?)


 ふと目を落とした、先ほど回収した写真。そこに写っている大事な事に気が付いた。



一舞
「…あの…いいかな」

香澄
「ん?なになに?」

一舞
「思ったんだけど、この写真…翔の家の前で撮られてるんだよね…」


「あ」


「そっか!」


「藍原邸の場所を知っている人間に的を絞れるということだな」

香澄
「ってことはバンド部員?」

由紀
「そんな…またですか?」


「強ちそれも無くは無いね」



 翔の自宅である藍原邸。彼の家族以外でその場所が知らされているのは、校内ではバンド部員だけだ。

 例えば部外者にそれが伝わっていたとしても、そこには必ず部員への繋がりがある筈。



慎一
「可能性の話だけど…」


 みんなが部員一人一人の顔を思い浮かべる中。それまで黙ってやり取りを見守っていた慎ちゃんが口を開いた。



「なに?」


「言ってみろ」

慎一
「はい…実は俺、前々から怪しいと思ってた人が居てですね」

香澄
「えー?誰ー?」


「二年?」

慎一
「はい」

由紀
「バンド部の人…ですか?」

慎一
「うん」

一舞
「…だれ?」

美樹
「…」


 みんなの期待と不安に満ちた目が慎ちゃんを囲んでいる。

 可能性の話…そう言った。だから確定では無いけれど、少なくとも彼の中では特定されているという事だ。

 あたし達それぞれの目を見て、一旦目を逸らし、瞳を閉じて一つ息を漏らすと、慎ちゃんはゆっくり、その名を口にした。







 

慎一
「めぐみ…だと思います」




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