元彼3




 まったく急ぐことなく到着した学校前。日差しは暖かく、朝日と言うより昼の太陽。重い気分のまま一応、教室に向かう。

 進学や就職の準備をしている連中は単位の取得に余念が無く、廊下にまで鉛筆の音が響いている。
 俺はまだ、何も決めていない。部長に祭り上げられて以来、それを考えることも諦めた。

 まぁ最悪、ライブハウスで働くっつーのもアリかなとか…今はそれで精一杯だ。


 俺のクラスでは自習中。自分の席について一息つくと、予鈴が鳴った。

 窓の外を眺めても、どんなに天気が良くても、気分はモヤモヤしている。


(面倒なことばっかだな…)



「…ふぅ」


           ガタッ…



「…?」


 椅子を動かす音に気づいて顔を上げると、向かい側に美樹が座っていた。



「…なんだよ、声かけろっつーの」

美樹
「うん」


 こんな俺の態度なんてお構いなしで、こっちも見ずに返事をする。


美樹
「…翔さんに会えなかったの?」


「…いや…会ったけど」

美樹
「…嫌だって?」


「ん〜…、嫌とも言わねーんだよなぁ…」

美樹
「ふぅん…」


 美樹と話すのは楽だ。入学した頃から俺たちの間には色気なんて全く無くて、遠慮なんかもいらなくて、好き勝手言い合える、裏のない付き合いができる友達。

 バンド部の役員としても、同じ仕事をこなす仲間だから、今の俺の現状もよく理解してくれてる。


美樹
「で?…どしたの?」


「何が」

美樹
「今日、ブサイク。なんか嫌な事でもあったの?」


「ブサイクってお前………元カノと会っただけだよ」

美樹
「………翔さんの家で?」


「そ…」

美樹
「…で、ビビったんだ」


「まぁビビったね」

美樹
「何か言われた?」


「…は?」


(ん?)


美樹
「一舞でしょ?」


「え……まぁ…そうだけど……?」




(…あれ?)





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