歪曲5



――――――――――side 一舞

 昼食を終えたあたし達は、部室から教室へと移動するところ。


 先ほど溢れ出した涙はなんとか引っ込めることはできた。顔も洗って、化粧も直したし。たぶん他の人にバレる心配は無い…と、思いたい。



 移動途中。それぞれの教室までの分岐点。

 いつもは生徒会長兼バンド部部長の宣材写真がデカデカと貼られているうえに、色とりどりのポスターが日ごと種類を変えて張り出される壁面。そこにいつもと違う人だかりが出来ていて、少々困った。

 群がるその人達の間をかき分けて進もうと努力するけれど、香澄と由紀ちゃんが押し潰されてしまいそうで、あまり無理が出来ない。


(なんでこんなに…)


 普段はもっと閑散としていて、ゆっくり散歩気分で通れる筈の場所だ。それが今は、まるで学校中の生徒が集まってきているのではないかという過密ぶり。


(困ったな…)


 このままでは授業に遅れてしまう。

 とにかくあたしは、先ず声を出そうと考えた。そう。あたしのこの図体は、こういう時のためにあると思うし。もしもの時は二人の盾になればいい。



一舞
「すいませーん!通りたいんですけどー!」


 出来るだけ大きな声で、此方の意図は伝えたつもり。

 ガヤガヤと色々な声で騒々しいその場所でも、あたしの声なら通る筈。


(?)


 声は通った。かなりの人が振り向いてくれた。でも…その視線はなんだかとても好戦的だ。そして先ほどまでザワついていた声が、今度は少々音量を落とした状態になって再び溢れだす。


「一舞だ…」

「うわ…橘本人じゃん」

「やばいってマジ…よく平気だよな」



 微かに聞こえた自分の名前。

 最早ここではあたしの名前を知らない人はいないのだから、呼ばれる事に不思議は無いけれど。いったい何故そんな、危ないモノを見るような目でこちらを見るのだろうか。


 不思議に思いながらも、開いた道に歩を進めようと足を前に出した。その時。



「涼がダメになったら今度はお兄さんに乗り換えるとかぁ、なにそれ淫乱〜」


一舞
「!?」

香澄
「!」

由紀
「?」


 すれ違いざまに言われた。

 今その台詞を言った犯人を捜そうと、立ち止まって辺りを見回す。

 いったいどういうつもりで言ったのかを聞きたい。誰だ。











(!……え!?)



 キョロキョロと辺りを見回していた自分の目線。不意に目に留まった掲示板。そこには…


香澄
「…ぇ?」

由紀
「……」

一舞
「…ちょ…なに…これ」



 目に留まった掲示板。そのど真ん中にはいつも、生徒会長の写真がデカデカと飾られているのが此処の名物だ。

 だけどその名物の上には何故か…


 あたしと透瑠くんの姿が…。

 早朝の藍原邸での、見送りの一瞬が…映し出されていた。







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