歪曲3



――――――――――――side 涼


「涼!」


「ん?」


 今にも泣き出しそうな空が窓に映る昼休みの教室。

 二つ隣の教室から、蓮がなんとも表現しがたいおかしな表情でやってきた。



「これを見ろ」


「は?」


 目の前に差し出されたのは某有名音楽雑誌、ファッション誌、ゴシップ誌の三冊。その何れにも《APHRODISIAC》のアー写が掲載されている。

 これがいったいどうしたと言うのか。

 メディアに出て行った先輩達がこうして雑誌の一面を飾っていることに感動しているのか…とも思ったが、どうもそれだけじゃないらしい。

 いつもの仏頂面がおかしな事になっている。



「なに?翔くんたちこんな沢山顔出しし始めたんだなーはは」


「そんな事を言いに来たんじゃない」


「ん?」


「この記事を読んでみろ」


「…?」


 蓮が開いた、ゴシップ誌のとあるページ。

 記事の見出しには、一際目立つバンド名と、そのすぐ下に『気になる彼らの生い立ち』と書かれている。



「…は?」


 『生い立ち』って…いきなりそんな事まですっぱ抜かれるのか。

 ぶっちゃけ翔くんたちのこれまでの人生はきっと、普通に考えるよりスキャンダラスではあるかもしれないけど…。

 そもそもメディア始動してまだ間もないバンドだぞ。誰がそこまで興味を持つってんだ?



「この記事を書いた記者は、ライヴハウス時代から翔さんたちを追いかけてきていた輩らしい」


「は?そんな前から?」


「特に彰さんと翔さんのネタは格別らしいな」


「……」


 彰さんに関してはバイセクシャルである事が赤裸々に書かれているし、翔くんに関しては過去に深く関わった女性のインタビューまで掲載されている。

 なるほど蓮が血相を変えるわけだ。

 こんな物が一舞の目に入ったらとんでもないな。



「この雑誌、お前が買ったのか」


「違う。洋の馬鹿が買い漁りやがったんだ」


「はー…」


 洋は洋で心配だったんだろうけど…どれだけ心配しようと、出てしまった物は引っ込める事なんか出来ないし、だいたい俺等ごときにどうにか出来るような代物じゃない。

 とにかく、一舞の目につかないように努力するしかないか…。



「貴様…よくもそこまで冷静でいられるな」


「は?なにが」


「ちゃんと最後まで読んだのか」


「最後までって…こんな見るに堪えねーもん読めるかよ」


「馬鹿が。いいから読め。此処だ。この部分が重要なんだ」


「…はぁ?」


 ウンザリしながら目を向けた記事の最後の部分。

 蓮が指さしたそこには…






「……なっ!?」


「…わかったか」


「…!…!」


 驚いたとか、信じられないとか、そんなレベルの話じゃない。

 これはどういう事なのか、直接説明してもらわなきゃ納得なんか出来ないぞ。



 いったい…誰が連れて来た?

 つーかなんで今更…こんな事になってんだ…!




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