霹靂11




高倉
「ああキミか、この前はどうもありがとうな」

透瑠
「はい。こちらこそ、先日はありがとうございましたぁ」


「…」



 今少し、透瑠からあの効果音が聴こえた。

 相変わらずだな。あの顔面に完璧に張り付けられた作り笑顔。元気そうで何よりだ。


 だが待て。今「この前」とか「先日」とか言ってなかったか?

 透瑠と高倉さんが直に会っていたということか。いったい何故?




「この前てなに?」

透瑠
「うん。お会いして話させてもらったの。なんか、やっぱりもう一音欲しいって話でさぁ」


「…それはアレやん。お前が抜けた辺りから助っ人的なモン探しとったやつやで?」

透瑠
「そうそう。それで、俺のところに高倉さんの上司の人から電話があったんだよ」


「マジか!」

高倉
「事情は色々あるやろけど、最近話題なっとるピアニストってことで電話入れたみたいやな。んで会うて話してみたらなんや、元々は彼もキミらのメンバーやったらしいやん。ほんなら助っ人言う形でも参加してくれたら安心やなぁと思って頼んでみてんけどな」


「助っ人!?」



 学さんの驚き様は当然だろうな。

 一度は抜けたメンバーが舞い戻るなんて話はそう珍しくも無いが、ウチの場合はあの透瑠だ。何故かはわからないが、学さんが苦手意識をもっているのも知っている。

 とにかく俺としては、この場を早く切り上げたいところなんだけどな。そうもいかないのかな。




「透瑠。助っ人は良いとして、お前、体調は平気なのか?あとコンクールは?」

透瑠
「ニュース観てないの?俺、コンクールでは歴代最高評価で最優秀賞貰ったんだよ?」


「マジで!?すごいやん!」

透瑠
「でっしょぉ〜?」


「体調は?」

透瑠
「平気ですよぉ〜。なんか急に元気出てきちゃって、バリバリ活動中なんです透瑠くん」


「そう。それは良かったね」

高倉
「まあまあ立ち話もなんやから、上行こや」

透瑠
「あ。ちょっと待って。実はもう一人来てるんですよ」

高倉
「?」


 待てというジェスチャーで俺達を制したかと思えば、先ほど自分が座っていたソファの方へ向かって歩きだす銀髪。

 誘われるようにみんな付いていくが…ちょっと待て。これじゃますます帰れない。

 今日の仕事は終わりかけているというのに。

 一舞が待っているのに…。



「もう一人て…」

透瑠
「うん。実は来週からパリ行きが決まってるんだけどね。コッチの契約も進んでるから、迷惑かけないために、透瑠くんの代理を用意したの」


「パリ…」

透瑠
「そう。パリで公演の予定が入ってるし、今後の予定もまだわからないから無理ですって、最初は断ろうと思ってたんだけどさ。それでもどうしても契約をって言われて。居ない間は代理でもたててくれみたな事言われちゃってさぁ」


「へえ…」

高倉
「ごめんなぁ、ウチの上司が無理言うて」

透瑠
「いいんですよぉ、嬉しいお話ですからぁ」



 エレベータホールと一階ロビーのちょうど中間地点で立ち話をしていた俺達だったが、透瑠の誘導でぞろぞろと移動を開始する。

 その間も透瑠の作り笑顔は崩れない。

 談笑する横顔からは何か言い知れぬものを感じるし、悪い予感も拭えない。


 みんな意外と気づいていないが、俺は知っている。

 透瑠の内面は、大半が黒いんだ。

 いつからそうなのかなんて既に曖昧だが…たぶん、今のアイツの頭の中にも、何かしらの企みがあるのは感じる。

 このまま何事も無く終わるなんて期待は、持てそうもないな…。











 ソファの場所まで来ると、その横に立って、透瑠は手を差し出した。

 差し出された掌に乗せられたのは、透き通るような白い手…。




「………!」


「!!」


「は!?」


「……」




 スッと、衣擦れの音が広いロビーに小さく響いて。透瑠が連れて来たらしき人物が立ち上がった。



 透瑠が俺を見て、不敵な笑みを浮かべている。

 どうだ驚いたかとでも言わんばかりに…。



 淑やかな動作で静かに立ち上がった人物。

 俺は…その人を知っている。

 知っている、が……





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