霹靂10




――――――side 翔


「なっがい便所やったなぁ。お前待ちやで。早よポーズ取りなさい」


「…悪い」


「…?」



 通路で偶然にも一舞に会えたのに、まともに話すらできないまま別れた。

 見えなくなるまで見送って、撮影室に戻った俺は余程おかしな顔をしていたんだろう。

 ふざけていた純が、途端に心配そうな顔になった。




「……どないしてん」


「…どうもしない」


「どうもない顔してへん」


「…いいから。気にすんな」


「…」


「…」


 いったい何故こんな場所で一舞に会えたのかはわからないが、一瞬でも顔が見られて良かった。そう思ったのと同時に、やはり混乱させているんだとわかって、切なくなった。

 必死に涙を堪えていた。肩が震えていた。あのままじゃ壊れてしまいそうだ。




「そういえば今日は、兄貴もここで撮影してるらしいね」


「え?わぁ…プロのモデルの撮影風景、見てみたいわ…」


「そうだね。俺も見た事ないから興味あるな」


「コレ終わったら見学にでも行ってみます?」


「見学?」


「場所わかってんのかよ」


「知らへん。けど、誰かに聞きゃわかるんちゃん」


「…そこまでして見たいか」


「…」

(そうか…それで…)


カメラマン
「翔くん表情暗いよ〜。もっと艶が欲しいなぁ〜」



 龍二さんに差し入れでも持ってきていたのか。そういえば何か抱えていたな。

 もしかして…通路に落としたままだったような…。



「…」


「…辛気臭い」


「…擽ったら元気出るかな?」


「やめたほうがええと思います」


「そうだやめとけ。お前も殴られてまた撮影中止になんぞ」


「なんだ、つまらないな。ふふ」



 とにかく今はシャキッとしなければ、いつまで経ってもこの苦痛な撮影が終わらない。先ずは求められている事に応えなければ。

 今夜、一舞は待っていてくれると言った。ならば仕事はさっさと終わらせて、一刻も早く帰って、安心させてやらばければ…。






………………



…………



……









高倉
「はいはいお疲れさ〜ん。真面目に頑張ってくれたからなぁ、肉でも食い行くかぁ?」


「いいっすね〜」

高倉
「明日もハードやしな、オッチャンが奢ったんでぇ〜」



 撮影を終え事務所に戻るため、俺達はマネージャーが運転する車に乗り込んだ。

 肉という響きにみんな若干テンションが上がっているようだが、俺はそんな事よりも早く帰りたい。

 騒ぐ関西弁コンビを横目に、気ばかり焦っていた。


 事務所駐車場に到着すると、降り立った先に見覚えのある車が駐車してあることに気づいた。



(マセラティ…?)



 シルバーのマセラティ・グラントゥーリズモ。あのナンバーは透瑠の車だ。

 機材車には向かないのがわかっていながら、どうしても欲しくて手に入れたらしいアイツの愛車。

 最近は忙しさからか、体調の悪化からか、あまり走らせていないと思っていたんだが。ここに在るということは、アイツが運転して来ているということになるよな…?

 でもいったい何故?






透瑠
「お帰りぃ」


「わ。透瑠や」

透瑠
「わーい、純くん久し振り〜」



 地下駐車場からエレベーターホールに辿り着くと、その先にある一階ロビーから声がした。

 声がした方を見遣ると、ソファの背もたれから身を乗り出し、此方に向かって透瑠が手を振っている。

 無駄に明るいその姿を確認するや、隣を歩いていた学さんの顔が引きつった。

 思っていたよりも元気そうだが、いったい何の用があってここに現れたのかが不明だ。


 なんだか悪い予感がするな…。




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