霹靂10 ――――――side 翔 純 「なっがい便所やったなぁ。お前待ちやで。早よポーズ取りなさい」 翔 「…悪い」 純 「…?」 通路で偶然にも一舞に会えたのに、まともに話すらできないまま別れた。 見えなくなるまで見送って、撮影室に戻った俺は余程おかしな顔をしていたんだろう。 ふざけていた純が、途端に心配そうな顔になった。 純 「……どないしてん」 翔 「…どうもしない」 純 「どうもない顔してへん」 翔 「…いいから。気にすんな」 純 「…」 学 「…」 いったい何故こんな場所で一舞に会えたのかはわからないが、一瞬でも顔が見られて良かった。そう思ったのと同時に、やはり混乱させているんだとわかって、切なくなった。 必死に涙を堪えていた。肩が震えていた。あのままじゃ壊れてしまいそうだ。 彰 「そういえば今日は、兄貴もここで撮影してるらしいね」 純 「え?わぁ…プロのモデルの撮影風景、見てみたいわ…」 彰 「そうだね。俺も見た事ないから興味あるな」 純 「コレ終わったら見学にでも行ってみます?」 彰 「見学?」 学 「場所わかってんのかよ」 純 「知らへん。けど、誰かに聞きゃわかるんちゃん」 学 「…そこまでして見たいか」 翔 「…」 (そうか…それで…) カメラマン 「翔くん表情暗いよ〜。もっと艶が欲しいなぁ〜」 龍二さんに差し入れでも持ってきていたのか。そういえば何か抱えていたな。 もしかして…通路に落としたままだったような…。 翔 「…」 純 「…辛気臭い」 彰 「…擽ったら元気出るかな?」 純 「やめたほうがええと思います」 学 「そうだやめとけ。お前も殴られてまた撮影中止になんぞ」 彰 「なんだ、つまらないな。ふふ」 とにかく今はシャキッとしなければ、いつまで経ってもこの苦痛な撮影が終わらない。先ずは求められている事に応えなければ。 今夜、一舞は待っていてくれると言った。ならば仕事はさっさと終わらせて、一刻も早く帰って、安心させてやらばければ…。 ……………… ………… …… 高倉 「はいはいお疲れさ〜ん。真面目に頑張ってくれたからなぁ、肉でも食い行くかぁ?」 純 「いいっすね〜」 高倉 「明日もハードやしな、オッチャンが奢ったんでぇ〜」 撮影を終え事務所に戻るため、俺達はマネージャーが運転する車に乗り込んだ。 肉という響きにみんな若干テンションが上がっているようだが、俺はそんな事よりも早く帰りたい。 騒ぐ関西弁コンビを横目に、気ばかり焦っていた。 事務所駐車場に到着すると、降り立った先に見覚えのある車が駐車してあることに気づいた。 (マセラティ…?) シルバーのマセラティ・グラントゥーリズモ。あのナンバーは透瑠の車だ。 機材車には向かないのがわかっていながら、どうしても欲しくて手に入れたらしいアイツの愛車。 最近は忙しさからか、体調の悪化からか、あまり走らせていないと思っていたんだが。ここに在るということは、アイツが運転して来ているということになるよな…? でもいったい何故? 透瑠 「お帰りぃ」 純 「わ。透瑠や」 透瑠 「わーい、純くん久し振り〜」 地下駐車場からエレベーターホールに辿り着くと、その先にある一階ロビーから声がした。 声がした方を見遣ると、ソファの背もたれから身を乗り出し、此方に向かって透瑠が手を振っている。 無駄に明るいその姿を確認するや、隣を歩いていた学さんの顔が引きつった。 思っていたよりも元気そうだが、いったい何の用があってここに現れたのかが不明だ。 なんだか悪い予感がするな…。 Novel☆top← 書斎← Home← |