霹靂7 ―――――side 一舞――――[某撮影所]―――― 今日は休日。翔との約束があるとは言っても、会えるのは夜だ。 気を紛らわせる事も必要だし、少しはマシな顔で会いたい。そう思ったあたしは、お弁当を用意してパパの仕事場へ差し入れに来ている。 ママはクライアントとの打ち合わせがあるとかで別行動。パパの居る撮影所までは送ってもらったけど、そういえばここに来るのは初めてかもしれない。 若干緊張しながら受付でアポイントを確認してもらい、撮影中のスタジオへ案内してもらう。すると其処には、初めて見る、仕事中のパパの姿。 (うわぁ…!) 今までパパの写真が掲載されている雑誌すら見た事が無かったせいか、何のイメージも持たずに入ったスタジオで、瞬間的に圧倒された。 室内の空気がなんだか違う。 パパを取り囲むスタッフの人達の表情は真剣そのもの。シャッター音に合わせて次々にポージングを変える被写体のオーラで、カメラマンの方が緊張しているようにすら見える。 パパの顔は終始無表情だけど、動く度に照明に照らされて艶めく髪と程よく鍛えられた身体が、驚く程たくさんの表情を生み出している。 カメラマン 「はい。オッケーでーす」 終了の合図でポージングを解いたパパは、カメラマンとスタッフの人達に向かって丁寧にお辞儀をして、ゆっくりとカメラの前から移動した。 室内には拍手が響きわたり、先ほどまで緊張の面持ちだった人達が笑顔でパパに歩み寄っている。 まだ余韻で動けないあたしは、ケータリングの置かれたテーブルの傍に突っ立ったまま、その光景を目で追っていた。 (あれがカリスマっていうやつなのかな…) いつもの笑顔は無いし、言葉も少な目のようだけど…あのパパが、ここにいるどの人からも慕われていることが窺える。 あたしが知らなかっただけで、実は凄い人なのかもしれない。そう考えると、普段いつもママに足蹴にされている姿が嘘のようで、ますます龍二くんという人が不思議に思えた。 少しして、あたしに気づいたパパが、終始無表情だった顔に少々の笑顔を湛えて近づいてきてくれた。 龍二 「来てくれたの?」 一舞 「う…うん。お弁当作ってきた」 龍二 「そう。ありがとう」 一舞 「……」 穏やかに、ほんの少しだけの笑顔でそう言ってくれたパパはどうも慣れない。別人みたい。 マネージャー 「あれ?龍二さん、この子は…?」 一舞 「!」 龍二 「僕の娘ですよ」 マネージャー 「ああ、この子が前に言ってた…」 一舞 「初めまして、父がいつもお世話になってます。あと、あの、突然お邪魔してすみません」 マネージャー 「いえいえ〜、此方こそいつも可愛がっていただいて感謝しています。龍二さんの御嬢さんがこんなに素敵な女性だとは存じ上げていなくて、此方こそ失礼しました。どうぞゆっくりしていってくださいね」 一舞 「ありがとうございます」 ぺこりと頭を下げると、マネージャーさんも丁寧に頭を下げて、離れていった。 (びっくりした…) 龍二 「…それにしても珍しいね。何かあった?」 一舞 「う、うん。何かあった、っていうか、ちょっとパパと話したかったというか…」 龍二 「話なら家でもできるじゃない」 一舞 「…そう、だけど……来ちゃだめだった?」 龍二 「ううん。嬉しいよ。ただ、どうしたのかな?って思ったから」 一舞 「…まだ撮影あるの?」 龍二 「うん、まだもう一本あるよ。でも、一時間くらいは休憩できるから、その間なら話せるかな」 一舞 「じゃあ、お弁当食べながら、いい?」 龍二 「喜んで」 パパがいつもの笑顔で、いつもの声色で応えてくれたその瞬間、室内が若干ざわついた。だけどおかげで、あたしの緊張は和らいだ。 パパと何を話したかったか、なんて…今の不安と悩ましさの答えが欲しいだけなんだけど。 ママの変わらない想いを知っていて、それでもその傍に居られる気持ちを知りたい。そういう思いもあったりする。 教えてくれるかどうかはわからないけど。 Novel☆top← 書斎← Home← |