霹靂6




――――――side 翔――――[某撮影所]――――

 数日後。

 俺と学さんのゴタゴタにより中止になったアー写撮影を仕切り直すための撮影日。

 高倉さんの言う通り、あの事件により色々な予定が狂ったため俺達のスケジュールは更にキツいものになった。とはいえ、関係各社への謝罪などに追われるマネージャーやその上の人間たちは、俺達よりもずっと大変そうだ。

 社会とは厳しいもの。我が儘が言えたライヴハウス時代とはわけが違う。それでも高倉さんが面倒を見てくれている間はまだ良い方なんだろう。

 これまでに知り合った業界関係者の話では、高倉さんがプロデュースしてくれているバンドはノビノビとした活動ができるそうで。

 実際、ツアー中に、しかも頻繁に。私用で地元に帰宅を許されるなんて事は、他では無い事なのだろうと思う。だからこそ、これ以上の迷惑はかけてはいけないとも思う。


 そんな反省を踏まえての撮影。おふざけは無しってことで、メンバー間では暗黙の了解といった雰囲気だ。一人を覗いては…だが。



カメラマン
「なんか今日は固いなぁ…緊張してるの〜?リラックスしなきゃ〜」



「…リラックスなんかできるか」


「せやな。俺もちょい緊張してんで。お前のせいで」


「は?」


「俺も。学と翔がまた殴り合いとかするんじゃないかと、もうヒヤヒヤ」


「彰さんのは絶対ウソですよね」


「嘘やんな。あり得へんわ」


「あれ?どうして信じてくれないのかな。ふっ、ふふふっ」


「ほら、笑ってんじゃん」


「なんでも面白がるんやめませんか」


「だって面白いものは仕方ないじゃない」


カメラマン
「今日は彰くんが一番いい表情だね〜。みんなも頼むよ〜。シャッターチャンス頂戴よ〜」



 パシャパシャとシャッター音が鳴り響き続ける室内。俺達の雑談は相変わらずだ。これのどこに反省の色があるのかと聞かれたら言い訳が難しいが、それなりに緊張感を持って挑んではいる。

 学さんも今日はなんだかスッキリした表情でカメラに目線を送ったり、ワザと外してみせたりして、真面目に取り組んでいる様子だ。

 雑談の輪に入って来ないあたり、まだ気まずさはあるが、それはそれで仕方ないんだろうな。


 俺はといえば、華さんに蹴られた一件で、ますます不安が増大している。

 一見、子離れできない親の怒りを買ったのかとも思える事件だったが、華さんの其れは違う気がした。

 あの人の性格なんて俺は知らないが、学さんや彰さんをあれだけ隷属させられる人だ。そんな単純で浅はかな動き方なんかしないだろう。

 そもそも涙の原因を、一舞自身が母親に話したとは考えにくい。そして学さんだって一舞に関しては娘同然に思っているし、傍からみてもそれは明確に見て取れるものだ。そんな人が原因だと、何故、そう判断するに至ったのか…。



カメラマン
「一旦休憩挟もうか〜」



 カメラマンの一声で緊張が解かれ、その場にしゃがみ込んだ。


 今頃、一舞はどうしてるかな…。

 今の俺が何かしたのならともかく、過去の自分が彼女を傷つけ混乱させているとなると、本気でどうしたらいいのかわからない。

 もともと苦手な事も手伝って、電話しようにも言葉がみつからないし、メールもどう送ればいいのか決まらなくて、結局何もできないまま携帯電話を閉じるしかないんだ。

 直接会えれば、顔を見て話ができれば、少しは方法も見つかるかもしれないのに…。

 出来るなら今すぐに会いたい。一舞の状態がわからないのが一番辛い。

 涼に尋ねたところできっと、俺がこの状況では、一舞が無理をしていることしかわからないんだから。



??
「姉ちゃんがな…」


「?」


 しゃがみ込んで床を見つめる俺の隣から声がした。

 少しだけ顔を其方に向ければ、派手な色の革パンが視界に入った。


(…学さんか)




「姉ちゃんがこの前来ただろ」


「…来ましたね」


「あれ…たぶんだけど、全部わかってるぞ」


「……」


「…俺が話した事も。お前が原因だってことも。全部知ってて俺を名指ししたんだ」


「…なんでそんな回りくどいことを」


「さあな。結局、俺がキッカケ作っちまったんだから、なんとかしろってことだろ」


「……なんとかって」


 まだ何かする気なのか。そう思い、咄嗟に学さんの顔に目が向いた。

 やめろと言いたかったんだが、途端に言葉に詰まった。

 本当に今日の学さんはスッキリした顔をしている。この前までの魂の抜けた雰囲気が嘘みたいだ。


(ああ、そうか…)


 なるほど。華さんは学さんのためにわざわざ乗り込んで来たのか。

 不器用な学さんが自己嫌悪で暗くなっていることがわかっていたんだろうし。学さんだって、第三者に殴られるなりすれば気が晴れるってことも知っていたんだろうな。


(一舞の母親か…なんかすげぇな………)



「っていうか…これ以上何する気ですか」


「そうだな…俺が出来ることなんて弥生にボコられることくらいか」


「あー…」


「俺はテメェに謝る気は無ぇしよ」


「酷いっすね」


「何が酷ぇんだっつの。宣言通りに殴らせてやったんだから、もう良いだろうがよ」


「おかげで色々滅茶苦茶ですけどね」


「…まあな、久々に効いたわ」


「当然。あれでもう少し踏切れてたら打撲じゃ済まなかったと思いますよ。お互いに」


「テメェ…俺にどんだけの恨みがあんだよ」


「恨むとか…そんな面倒な思考回路してませんよ俺は」


「どうだか」



 俺達の仲直りの仕方なんていつでもこんなモノ。

 学さんはあんな感じでも俺を嫌っているわけでは無いし、俺だって同じ。

 一舞を心配する学さんの気持ちだってわからなくは無いから、少なくとも俺にとっては許すとか謝るとか、そもそもがそういう問題でも無い。

 認めてくれればそれでいいだけの話で、そのためには努力しますよと言っているだけの話。

 邪魔をしているのは俺の過去だ。

 こればかりは今更消すことなんか出来ないんだから。今を大切にしたいなら頑張るしかない。




「…あ」


「あ?」


「いえ…」



 冷静になって思い出した。確か、今夜は会う約束の日だ。だがもし撮影が長引けば会えなくなってしまう…。

 とにかく先ずは早く完了できるように頑張るか。




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