霹靂4




 『一舞が泣いていた』という報告で確信した。

 学さんは予告通りに俺を出し抜いたのだ。

 メールの内容は簡単なものだったが、一舞が学さんから何かを聞いた後、とても悲しそうに涙を流していたという重大な事実が書かれていた。

 涼のお節介がこんな風に役立つとは考えていなかったな。


 口元から鮮血を垂れ流したまま、未だ顔を上げようともしない学さんを見下ろし、自分の情けなさを痛感した。

 出し抜くと予告した先輩に対し、それならば殴ると宣言したのは俺だ。だがこの事態の責任は、学さんには無い。

 一舞が泣いた責任は確実に…俺に在るのだから。









………………


…………


……















 数時間後。

 やはり撮影は中止になった。

 拳に包帯を巻きつけられた俺と、鼻と口元にガーゼを張り付けた学さんは、事務所で始末書を書くハメになっている。

 目の前には珍しく仏の顔を崩した高倉さんが仁王立ちしているし、マネージャーは必死に携帯電話に向かって頭を下げている。



高倉
「ほんっま…どう始末つけんねや…全ての予定が狂うねんで。どんだけの人間に迷惑かかる思てんねん」


「…すみません」


「……」

高倉
「そもそも学くん。キミは今日はどないしたんや?ヤル気の欠片も無かったやんか」


「……申し訳ありません」


「…」



 学さんが謝る姿を見るのは何度目だろう。そうそうお目にかかった記憶は無いが、こうも潮らしいとさすがに申し訳ないとう気持ちになる。





 時刻は既に夜10時を過ぎていた。

 事務所内には人気も疎らで、喧嘩両成敗の血なまぐさい小会議室に入ってくる人物が居るなど、誰が予想しただろうか。


??
「入るぞ」


 しっかりと腹から発せられた、自信に満ちた声と共に漂って来た香水の香り。

 驚き見遣った其処には、華さんが立っている。

 その姿を確認するや否や、隣でうなだれていた学さんが立ち上がった。



高倉
「は、華ちゃん!どないしたん!?」


「ああ、高さん悪いな。邪魔して」

高倉
「いや…ええけども…」


「義弟に用があって来たんだが………おい学。なんだお前のその腑抜けた面は」


「ね、姉ちゃん、なんで…?」


「お前があたしの娘を泣かせたんじゃないかと思ってな。ヤキ入れに来たんだよ」

高倉
「は、あ、あの、華ちゃん?」


「身内の話だ。少し黙ってな」

高倉
「はい…」


「…泣かせたのは俺です」


「…は?」


 思わず俺も席を立ち、何故か釈明を始めてしまった。

 咄嗟に身体が動いた。なんだろう?空気のせいか?



「…学さんは、娘さんを心配して事実を伝えただけです」


「…そうか。まあ、あたしにしてみりゃどっちもどっちだ」


「は」

    ガッ!!! 



「お」


    ドスッ!!!






 華さんは、体格だけ見れば華奢で小柄な女性だ。

 だけど、その蹴りの破壊力を甘く見ていたことに驚愕した。



 一言の言い訳も許さないうちに、俺も学さんも腹を押さえて床にしゃがみ込む結果となった。




「頭が高いんだよクソガキ共が。しかもあたしの娘を泣かすなんて1億年早い。言い訳したいならまず土下座しな」


高倉
「華ちゃん…ドS…」





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