霹靂3




――――[某撮影所]――――

 翌日は、既に計画されていたらしい撮影日。

 所謂「アー写」と呼ばれる宣材写真を撮られる。

 俺達には特に決まった衣装も無いし、各自それぞれ普段着のような恰好でいつも活動しているから、ここで一度撮ってしまえばそれで完了してしまうようなものだが。

 こうも小奇麗な場所で、メイクアップされて、何度もフラッシュを浴びて、幾つものポーズを要求されるのはどうも慣れないというか。新鮮というか。やっぱり気が乗らないというか…。

 龍二さんを尊敬せずにはいられないな。



カメラマン
「翔くんもう少し顔の角度、コッチに向けてくれる?あ。あと彰くんね。ホストじゃないんだから、もっと自然な感じで頼むよ。あんま目力とか要らないからね」



「…コッチってどっちだよ」


「てかこの人ホストやし、目力とかいつもと大して変われへん。ふはっ」


カメラマン
「お?純くん、今の表情いいねー」



「あら。褒められたで」


「良かったな。なんなら俺の分もポーズとってくれよ」


「それは無理な相談やわ」


「ふふっ、たまにはこういうのも楽しいね。つい乗っちゃったよ」



 さすがは龍二さんの弟と言うべきか。初のモデル体験も彰さんにとっては楽しい遊びのようだ。

 コソコソと、カメラマンの注文に突っ込みを入れる俺達は、傍から見ればそれなりに楽しそうに見えるのだろうか。高倉さんもマネージャーも、まるで公園で遊ぶ我が子を見守る父親のように、微笑みながら此方の様子を眺めている。

 悪いが俺としては、出来るだけ早く終わってほしいんだけどな。



カメラマン
「あー…学くん?あのー…もうちょっとヤル気出してくれないかなー」



「…」


「…」


 俺の左斜め後ろ。ステージで言うところの上手位置に居る学さん。その表情が終始おかしい。

 いったい何だっていうのか、不機嫌なのとはまた違うようだが。仕事となればどんな事でも全力のこの人が、こうなる姿など今まで見た事が無い。

 学さん唯一と言っても過言ではないその良さが、全く消え失せてしまっている。




「どうしたの?」


「…いや」


「腹でも減ったんすか?」


「別に」


「…」



 聞かれた事には答えるらしい。しかし目線は合わせない。ずっと下を向いている。



(……まさか…?)



 一舞と話したのか?

 もし話したんだとして。もし、俺の過去をバラして帰ってきたんだとして。いつも通りに振る舞える人では無いのは知っている。

 ああ見えて曲がったことが嫌いな性格だ。もしかしたら自己嫌悪にでも陥っているのかもしれない。そう考えたら背筋が寒くなった。

 一舞に伝わったかもしれない。

 俺が自分で話すべき事を、学さんが伝えてしまったかもしれない。

 それがどういう意味を持つことなのか。どういう影響を与えるのか。わかっているからこそ自分の口から伝えたかったんだ。


(……そうか)


 困ったことになったな…。



カメラマン
「はーい、じゃ、ちょっと休憩入れようか」


 カメラマンの一声で、身体中に行き渡っていた緊張が解かれる。

 すぐさま撮影室の隅に用意されたケータリングに手を付けると、テーブルに置いていた携帯電話がバイブレーションの振動を響かせて騒ぎ始めた。

 開いて確認すれば、メールの受信を知らせるディスプレイ表示に涼の名前。

 内容は…?

























高倉
「あッ!あかんッ!!!」




















 手から滑り落ちた携帯電話が、小さな音を立てて床に転がるまでの数秒の事。

 俺の拳が学さんの顔面にぶつかり、衝撃音と共に振りぬかれた。


 こういう約束だ。

 仕方ない。



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