霹靂1



――――――side 翔――――[事務所小会議室]――――

高倉
「ほな始めんでぇ〜」


 リーダー、プロデューサー、事務所側の三者で事前に打ち合わせた内容を、メンバー各自に落とすための会議。

 学さんは何やら弥生さんから子守りを頼まれたとかで不在だが、まさかこのチャンスを狙って一舞に接触しているのではないかと、俺は内心不安感でいっぱいだ。


高倉
「先ず始めに報告な。この前出したCDの売上報告やけども」


 プロデューサーの高倉さんは、パイプ椅子の背もたれを軋ませながら、手元の資料に書かれた数字を読み上げた。


高倉
「この数字やったら新人としてはそこそこ好調な売れ行きや。アンケートによれば無料ツアーも効いとるようやし、メディアへの顔出ししてへんのも逆に気になる要素になってんねやろな。まあ言うてもそこそこやけど」


「ってことは、次回は露出方面で進むわけですか」

高倉
「そうやな。お前らみたいイケメン集団なんか業界にはいーっぱい居るやろうけど、やっぱビジュアルで掴める客層は掴んどいたほがええんちゃうかー言う話んなっとるよね」


「ビジュアルねぇ・・・」

高倉
「そうよ?音で勝負したい拘りは俺にもようわかるけども。見た目も結構重要なんよ?まさかあの美声が俺みたいなオッサンやったら逆効果になんねんから」

椋橋
「自虐やん」

高倉
「あ、椋橋おったん?ふふっ、世の中は厳しいねんで。知ってはるやろキミも」

椋橋
「存じてますよー。しかし俺がここに参加しとってええの?」

高倉
「うん。ええよ」


「無料ツアー一緒に回った仲やないっすか」

椋橋
「そう言うてくれる?お前ええ子やな」


「俺としても尊敬する椋橋さんと一緒にライヴができるなんて、貴重な経験をさせていただきましたよ」

椋橋
「あら。随分持ち上げるねぇ。そんなん言うてもなんも出ぇへんよ?」

高倉
「彰くんも純くんもキミのファン様やで。そら喜んでくれはるやろー。っちゅーか、俺も伝説仲間やねんけど。誰も持ち上げてくれへんな。ははっ」

椋橋
「そんなんしゃーないわ。高さんメタボなってもて見る影ないもん」

高倉
「生意気な後輩やなキミは」

椋橋
「ダイエットしてください」

高倉
「耳タコ」


 小さな会議室には笑い声が充満し、どんどん話が逸れていく。

 当時、即ビジュアル路線で売り出したがっていた事務所側に対し、先ずは音だけで勝負させてほしいと懇願し実行されたのは、俺達の気持ちよりも高倉さんの意向が強かった。

 幾度となく説得されながら、どうにか辿り着いた今日。素晴らしいプロデューサーのおかげでとりあえずの成功は掴んだ。

 まだまだこれからが勝負ではあるが、少しくらいは浮かれてもいいだろうとは思う。しかし、和やかな空気が漂う中、困ったことに俺の不安はジワジワと増大中だ。

 短期間とはいえ、それなりにハードだったツアー中。毎日のように一舞の様子を見に店へと足を運んでいたあの学さんの姿。

 接触回数は俺よりも多かっただろうが、変化が無かったことを考えると、俺同様かそれ以上に躊躇ってはいるのかもしれない。しかしそれも、いつまで続くかわかったものじゃないからな。


高倉
「翔くん、どないしたん?何か気になる事でもあるん?」


「え?…あ、いえ」


「学さん居らんからって気ぃ抜いたらあかんで」


「居ねーほうが気が抜けねーわ」


「は?」


「いや、こっちの話」


「余計なお節介してなきゃいいけどな。ふふっ」


「笑いごとじゃないっすよ」


「あーごめんごめん。ふふふ」


椋橋
「仲良しやな」

高倉
「ホンマやな」


 次に一舞に会えるのはいつだっけ?今度こそは話そう。

 とにかく、学さんが戻るまでこの不安はなくならないのだから、殴る準備だけは忘れずにしておこうか。



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