解放3




由紀
「…良かったです」


「………?」

由紀
「一舞ちゃんが先輩の前に現れてくれて…良かったです」


「……………」

由紀
「…話してくれてありがとうございます…先輩」


「……」

由紀
「やっぱりわたし、間違ってないですね。先輩は優しいです」


「…………」

由紀
「傷付いた経験がある人は、人の心を思いやることができるそうですよ。表面的なことだけじゃなく、もっと深い意味で優しくできる人なんです先輩は」


「……」
(まだ言うのかコイツは…)


 決めつけるような言葉にウンザリとしながら、尚も俺を良い人にしたい由紀を睨みつける。


由紀
「睨まれたって負けませんよ」


「!」

由紀
「わたしが一舞ちゃんの代わりになれるなんて思ってませんし、なろうとも思っていませんけど…苦しい時は、せめて甘えてください」


「…お…!?」


 言い終えるや否や、か細い腕が、俺の頭を引き寄せた。





由紀
「わたしだって、これくらいなら出来るんです」


 胸元から俺の耳へ、優しく伝わる振動。包み込まれる温度。

 その柔らかい声色と、仄かに感じる花の香りが、強張っていた俺の心を解していく。





「……………貧乳」

由紀
「う、うるさいです」


「!?」


 照れくささから自分の口をついて出た浅い台詞に驚き、反論を受けて更に驚く。

 それにしても何なんだ。

 コイツをこんな風にしたのは誰だ?まさか俺なのか?



「フン…生意気だな。まあいい。それよりもこんな事をして、俺がお前に変な気を起こしたらどうするんだ」

由紀
「その時は、思いっきり殴ってあげますから安心してください」


「…貴様の打撃など効くか」

由紀
「…知らないんですか?」


「…何をだ」

由紀
「愛の鞭って、痛いんですよ」


「……は?」

由紀
「先輩は、わたしには勝てません」


「……」

由紀
「というか、わたしが負けてあげませんから」


 そう言った声が少し震えている。

 無理をしてでも俺をなんとかしたいのか…やはり、由紀は由紀だな。



「……そうか。じゃあ遠慮なく…貧乳に寄りかかるとするか」

由紀
「貧乳じゃないですし、ていうかこれからなんですわたしは!」


「ふっ…いいから少し黙れ。今すごく…気分がいいんだ」

由紀
「………はい」



 腕をすり抜け、その膝に頭を乗せると、柔らかい笑顔が目の前にある。

 頬を赤らめながら俺の髪を優しく撫でる由紀の、その小さな手が今はとにかく愛おしい。


(そうだな…由紀の言うように、自然にまかせてみようか…)


 少しずつ、俺の中で何かが変わってきている。

 きっともっと、変えていける気がする。

 今はまだ、俺が甘えているだけかもしれないが、コイツの気持ちに応えられる日は、たぶんそう遠くないんだろう。


 2人で過ごしている時間は心地よく。

 優しい由紀の柔らかい香りに包まれて、俺はまた、眠りに落ちていった…





――――――substoryC

《斉藤 蓮》編


to be continue…








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