解放2





「…続けるぞ」

由紀
「は…はい」


 由紀の挙動が元に戻るのを待つつもりなど毛頭ない。

 慌てて襟を正すその姿を横目に、俺は話を続けた。




「あの頃はまだ、俺と洋には差ほど違いなど無かった。だがその女は的確に俺達を見分けて、確実に俺だけをあらゆる場所に連れ出した。それがとにかく嬉しかったのを覚えている」

由紀
「……」


「一括りに見ず、俺を一人の男として接してくれたことが。あの頃の俺には特別なことだった」

由紀
「…」


「傍から見ても、当時の俺の感覚から言っても、外見はなかなかいい女だったからな。洋には散々羨ましがられた」

由紀
「……」


「だが、その女…」

由紀
「?」


「俺との行為を全て、ネットに流して楽しんでいた変態女だった」

由紀
「!……」


「俺は、ただ純粋に愛されているものだと思っていたし、奴から与えられる全てが初めてのことだった。恋愛感情など持っていたのかさえ不明だが、わからないなりに必死に大人ぶっていたんだ…」

由紀
「……」


「だが、蓋を開ければ全くの勘違いだった。俺以外にも何人かその女に丸め込まれていたガキがいたらしくてな。どこからか事が発覚して、その女は捕まったが…」

由紀
「……」


「おかげで俺は、女を信用できなくなった」

由紀
「………」


「ニュースにもなったが、俺の名前は伏せられてたし、俺自身も周りにバレないよう必死に隠していたから…家族も仲間も、俺が被害者だとは知らない。ただ『ガキの頃に大学生と付き合っていた経験のある女好き』としか思っていないだろう」

由紀
「……先輩…」


「そこからだな…好意的に近づいてくる女には、それ以上近付けなくなるだけ罵声を浴びせ、泣かせて傷つけて、興味半分で付き合っては捨ててきた。一舞に出会うまで…俺が信じられたのは音楽と、仲間と家族だけだった」

由紀
「………」


「だから…バンドに一舞を入れると言われた時、俺の世界を壊されるような気がしてアイツをソレまで以上の勢いで罵ったんだ」



 傷つけられたからと言って、誰彼と傷つけていいものでは無いことなどわかっている。

 誰の責任でもない、俺が判断できなかった事が原因なんだ。

 そんなこともわかっているが、信用できないものを受け入れることなんか出来るわけがない。


 思い出す度に昔の浅はかな自分に腹が立つ。

 やはり話すべきじゃなかった。

 いや、逆に良かったのか…?

 さすがに由紀も、こんな俺には幻滅しただろう。






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