元彼1




(なんだアイツ!?なんだアイツ!?なに謝ってんだアイツ!?)


(つーかいきなりなんつーバカ力だっつの!あまりに軽々吹っ飛ばされたから一瞬わけわかんなくなって走馬灯とかよぎったわ!!)


(っていうか俺だよ!なにが『…遅刻すんぞ』だっつの!他に言うことねーのかよなっさけねー!)



 翔くんの部屋まで逃げながら、俺はとにかく混乱していた。

 なんだか情けなくて、自分に腹が立ってしょうがねー。そんな気持ちで、どうにも落ち着きを取り戻せないまま、いつものように扉を開く。


(つーかそもそもアイツ、俺に謝ってたんだよな…それって、どうしてだ?)



「…?」


「キモいな…」


 部屋に入るなり、気だるい罵声が飛んできた。



「…」


 見慣れた室内には、伸ばしっ放しのブロンドの髪を無造作にかきあげて、いったい何本目なのかもわからない煙草に火を点ける幼なじみの姿。

 ベッドに寄りかかり、無駄に長い足を放り出して、全身から力が抜けきったようなスタイルで、吐き出した煙を弄んでいる。



「……キモいって、何が」


「お前がキモい」


 無表情で、くわえ煙草のまま更に言ってくる。



「俺の何がだよ」


 なんて失礼な物言いだ。そりゃ反抗もしたくなる。しかし翔くんは、それに答えることも無く、無言で煙を吐きながら黙って顔を天井に向けた。



「……」


「……」

(ほんっっ……と!絡みづれぇ!!……前はこんな風じゃ無かったのに!)



「あのさ翔くん」


 気を取り直して本題に入る。



「いつ店に来んの?」


「……」


「ライブハウスでメインがライブできねーって、かなりヤバいと思うんだけどさ」


「……」


「俺らの仕事はその他大勢のアシスタントじゃねぇんだけどっ!」


「……」


「……」


(まるで聞こえねー…みたいな顔しやがって!)



「翔くん、バンド辞めんの?」


 と、言い終わらないうちに…



「あれが元カノ?」


「……」


(やっと口を開いたと思ったら………今の話と何の関係もねーし!!!)



「そうだけど!」


「…なんで、俺ん家にいたんだ?」


(!?)



「し…知らねー…」


(そう言われたらそうだよな………一舞はここで何してたんだ?)




「…つーか」


「は?」


「お前、学校行かねーの?」


「……」


「……」


「……っ!」


「……」


「行くよバーカ!!」


(すっとぼけやがった…面倒だからって話をすり替えやがった…)


 やってられねーってのはこの事だ。いつまでこんな茶番を続ける気なのか、おかげでまったく来た意味がねーんだっての!!



「もう来なくていいからな」


 捨て台詞を吐き捨てて部屋を出ようとする俺に向かって、気の抜けきった声が飛んできた。


 二度と来るか!とは言えないのが悔しい限りだ。



 まったく。マジ勘弁してほしいわ…。




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