報い3





「っハァっハァ…なんなんだっ…アイツら…クソッ!」


 息を切らしてたどり着いた屋上。つい、先ほどまでの異様な雰囲気に対する愚痴がこぼれた。


由紀
「…っせ…せんぱ…」


「!」


 俺の胸元に抱え込まれている由紀の声。

 我に返り腕を離したが、まるで小脇に抱えるように連れてきたその小さな体が若干震えている。

 途端に地べたに膝を付いたその姿に、珍しくも申し訳ないという感情が芽生えた。



「悪かった…もっと普通に呼び出すつもりだったんだが…」


 本気で心配になりその顔を覗き込めば、いつものように真っ赤になっていた。


(なんだ…)


 首元まで朱色に染まり、抱えられたことに照れて居るらしい。


 それにしても、単純に由紀を呼び出しに行っただけなのに、ヒドい目に遭った。

 人気の無い屋上をぐるりと見渡し、漸く落ち着けるのだと安堵する。

 隣で朱色に染まっていた由紀は、自分の顔や胸を押さえながらどうにか平常心を取り戻そうとしているようだ。

 しかし、あまりそんな姿を見せられると、なんだか俺が、とてつもなく恥ずかしい事でもしたような気分になるじゃないか。



 腕を組み、さてどうしたものかと考える。

 居心地が悪くなっている俺に気づいたのか、由紀は慌てて呼吸を整え、妙にスッキリした表情でこう言った。


由紀
「先輩。わたしに何か、話があるんですよね?」


「……あぁ…そうだ」

由紀
「…嬉しいです」


「…?」

由紀
「…メールじゃなくて、直接呼びに来てくれるなんて」


「………あ」

由紀
「…嬉しいです」


「……そうか」


 返事をすると、ふんわりとした笑顔をこちらに向け、嬉しそうに眼を細めた。


 確かに由紀の言う通りだ。

 呼び出すくらいメールでも良かったのに、何やってるんだ俺は…。



「…ま…まぁいい。座って話そう」

由紀
「はい」


 少々照れくさい気分だが、由紀が嬉しそうにしているし、まあ良いだろう。

 このところ泣き顔ばかり見ていた気がするせいか、その笑顔は俺の仏頂面まで緩ませる。

 まったく厄介な才能だ。

 おかげで先ほどまでの落ちた気分まで軽くなっているとは…。


 それにしても、屋上のこの場所に来るのは随分久し振りな気がする。

 特に、由紀と並んで座るのも久し振りで照れくさい。

 いつもはコイツのほうが焦っているところなのに、何故そんなに嬉しそうなんだ。






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