報い1




 それから数日。

 あの告白など無かった事のように、ほぼ毎日、由紀からのメールは来る。

 だが、内容は特に今までと変わらないし俺が返事をしないのも同じ。

 内容が変わらないのは、それが由紀の気遣いなんだという事くらいわかっていたが、俺の中で答えが出ない以上それに応えることはできなかった。




 昼休み。

 最早当たり前のように部室へ向かおうとしていた俺は、軽音科から練習棟へ続く中庭で足を止めた。

 中庭から見えるピアノ科の校舎。その渡り廊下を歩いている一舞を見つけたからだ。

 べつに校舎内を歩いているなんて普通の事だが、なんとなく雰囲気がおかしく見えて立ち止まってしまった。なのに声を掛けることも出来ないまま、その姿は視界から消え去った…。





 滑らかになびく赤い髪。一舞の存在は、まるで其処にだけスポットライトが当たるように必ず目に留まる。

 その度ザワザワと気持ちの波が押し寄せ、引くことも無く胸の奥を掻き毟る。そして、俺の中の未練を鮮明に浮き出させていく。


 この症状は気持ちを伝える以前より酷い。


 上手くいかなくとも、吐き出してしまえばスッキリ諦められるものだと思っていた。なのに膨らみ続ける心は今や制御の方法さえ見失っている。

 気持ちを消すなんて無理なのかもしれない。でも何故だ?何故消せない…?

 初めて知った大切な気持ちだから?いや、そんな可愛らしいものなんかじゃない。


 愛しさに比例するように膨らみ続けてきた俺の中に在る汚らしい欲望。その不純な妄想で、今まで散々アイツを汚してきた。

 燻り続けているソレは、アイツだけじゃない。沢山の女を犠牲にして抑え続けてきたモノだ。

 消化できずに時間だけが過ぎた。

 たとえ伝える事ができても、消し方がわからない。ただの仲間に戻る術がわからない。



「……」
(ただの、仲間…?)


 一度だってそんな風に思ったことがあっただろうか…?

 出会った頃から求め続けていたのに…




 足元に落ちた視線は、綺麗に刈り揃えられた芝生を見つめている。

 もう空を見上げる気力さえ出ない。


 このままでは俺はどうにかなりそうだ。そんな不安が芽生えた時、洋の言葉を思い出した。



「…選択……」


 今選ぶべき選択肢は何だ。

 一舞が翔さんのものである以上、俺には何も出来ない。ならば今選ぶべきは…






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