迷求3




(………………?)


 体が微妙に汗ばむ心地悪さに目を開ける。

 景色は相変わらず自分の部屋だ。


(………なんだ、俺…いつの間にまた眠っていたんだ?)


 右手には携帯電話を持ったまま。左手には、結局一文字も書かなかったノートと、ヒビの入ったペンを握ったまま。

 ベッドの上に座り、壁にもたれたまま寝ていたらしい。


(……不思議だ)


 たぶん…由紀からのメールに、また癒されたのかもしれない。

 好きだと言われて嬉しかったのは本当だが、俺の中で…由紀へのそういった感情は育ってなんかいないのに。


 確かに数時間前のやり取りで、距離感は随分と変わった。

 ただのチビでもただの後輩でもない、1人の女としては見れるようにはなっている。

 そしてそんな由紀に、多少甘えている自分も感じられる…。


(これは困るな…)


 ハッキリ言って由紀をそういう対象にはしたくない。

 あの時の美樹のようには、絶対に…してはダメだ。

 今の俺に、きちんと自分をコントロールするだけの理性はあるだろうか…。

 もし無いのなら、離れなければならない。


 美樹にだって…あの頃の俺は、距離を置こうとしたことがあった。

 でも距離を作ろうとすればするほど近くなった…そして最後は、理性の糸が切れてしまった。


 由紀の性格を考えれば、例えば冷たく突き放したところで諦めるとは思えない。

 俺に怒鳴られたって、今の由紀はたぶん平気なんだろう……だとしたら、どうすれば離れられる?



 時刻は午前9時をまわっていた。

 もうとっくに学校は始まっている。

 未だに隣の部屋からは、洋の歯軋りが響いている。


 双子揃って堂々とした遅刻とは…そんなに仲が良くはないはずなんだが。

 それにしても…この不快な音の中でも眠れてしまうほど、由紀には癒やしの力があるらしい。


 なるほどこれが、アイツの才能なんだろうな…。






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