迷求1




「……」
(今、何時だ?)


 肌に感じる空気の変化に気づき目を開けると、無造作に引き下ろされたブラインドの、隙間からの差し込む薄明りで、室内がぼんやりと明るくなっている。


(朝?…いつの間に眠ったんだ?)


 まだ意識のぼやけた頭で、今の状況までの経緯を思い返そうと上体を起こす。


 由紀を送ったあと俺は、真っ直ぐ家に帰ってきた。そして、自分の部屋のベッドに横になって、ゴチャゴチャと考えていたはずだ。

 由紀からの言葉に自分がどう対応したいのか、何故か考えずにはいられなかった…気がする。

 だが、散々泣かれて、無理やり優しさを絞り出して、ヘトヘトだったはずなのに、何故かとても気分が良かった。

 覚えているのはそれだけだ。


 自分の身なりを確認すると、制服を着たまま。

 視界がぼやけていることに気づき、枕元に備えてある自宅用の眼鏡を装着。室内を確認すれば荷物もそこらに放り出したままで、いつになく足元が乱雑だ。

 帰ってくるなりベッドに倒れ込んだのは自分だが…まさかあのまま眠ってしまうとは我ながら少し呆れてしまう。

 それでもコンタクトは外していたあたり、妙に冷静なのが滑稽だな。

 それにしてもずいぶんと熟睡していた。こんなに快適な寝覚めは久しぶりだ…夢も見なかった。


(由紀のおかげ…なのか?)


 アイツは不思議と俺を癒やす。

 知り合った頃はあんなにウザったいと思っていたのに…。




 ベッドに腰掛けた体制で、自分に起きた不思議に首を傾げる。

 答えの出ないまま徐々に頭が冴えてきて、それに伴い全身が目覚め、心地よさが満ちていく。

 携帯電話を確認すると、まだ朝の4時。

 自分で感じているよりも睡眠時間は短かったらしいが、少しだけ睡眠不足が解消されて軽くなった体を持ち上げるように立ち上がり、シャワーを浴びるため部屋を出た。



……………


………







      ガラガラ…




「?」


「!…げっ!」


「…」
(ずいぶんなリアクションだな…)


 自分の部屋を出て階段を降りきった時、玄関の戸がガラガラと音を立て開いたかと思えば、朝帰りの洋がそこに居た。

 俺に気づいてばつが悪そうな顔をしているが、そんな顔をしなくともお前に構う気など無いんだ。

 だがそうだな…挨拶くらいはしてやってもいいか。



「いっそ美樹の部屋で暮らせばいいんじゃないのか?」


「………卒業したら、そのつもり…」


 まったく、さっさと靴を脱いで部屋にでも行けばいいものを、玄関扉の前に突っ立ったまま、口を尖らせそっぽを向いている。



「まぁいい…俺は風呂に入る。あまり五月蝿くするなよ」


「…わーかってるよ」


 ウザったいという感情を全身で表現しながら、ようやく靴を脱ぎ捨て階段を駆け上がっていく。

 俺とは双子だという噂のチャラい男。あそこまで目にうるさい配色でよく街中を歩けるものだ。


 それにしても、付き合い始めてからというもの毎日これだからな…2人きりで朝まで過ごして、することなんか決まっている。

 周りが見えていないのか、それを悟られても平気なのか…まぁ、幸せならそれでいいが。



 洗面台の前に立ち、シャツのボタンを外しながら…鏡に映る自分の顔に少し、安堵の色が見えた。





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