浸染6





「ちゃんと頑張れとは…俺に向かって言う言葉じゃないな」

由紀
「きゃっ!?」


 俺の左手は由紀の腕を逃げられないようにしっかりと掴み、右手は由紀の顎をすくい上げてその赤くなった顔を俺に向けさせた。

 由紀はさらに真っ赤になって困惑の表情を浮かべている。

 そうだな…まるで今にも悲鳴を上げそうな表情だ。

 まぁ叫びたければ叫べばいい。俺をナメるからこういうことになるんだ。



「まったく生意気になったものだ…」

由紀
「せっ!先輩!!ちかっ近いですぅ!!」


「当たり前だ。近づいたんだからな」

由紀
「〜〜〜っ」


 真っ赤になって困っている由紀に容赦なく顔を近づけて、さてそこからどうしてやろうかと額を擦り付ける。

 しかしどうも面白くない。

 せっかくこんなに近づいてやってるのに目を閉じるなんて、つまらない反応だ。



「お前に俺の何がわかる?」

由紀
「………」


「なにがちゃんと頑張れだ…三年もの間、ずっと報われないままなのに…」


 ピッタリと互いの額がくっついた状態で、由紀は黙ったまま…俺を振り払おうともしない。



「今も昔もずっと苦しい…一舞にはちゃんと、気持ちは伝えたんだ。だがアイツは…俺に恋愛感情など持たない。仲間としか思っていない」

由紀
「………先輩…」


「だから、俺の気持ちを受け入れられない…と、一舞はハッキリ答えた。だから俺は…ただの仲間としてアイツを支えていくために、気持ちを消すと決めたんだ」

由紀
「…………」


「気持ちを消すのは簡単じゃない…だが、もう終わったことだ。だから…頑張れなんて言うな」

由紀
「………ごめんなさい」


「………」

由紀
「…ごめんなさい………」


「………もういい」

由紀
「………」


 言葉が途切れると同時に、俺の手の力は緩んだ。

 代わりに、解放された由紀の手が俺の頬に触れ…その温かさに思わず目を閉じた。
















「………?」


 突然、唇に触れた感覚で目が開いた。

 それと同時に額も離れ、ピントの外れたままだった由紀の顔がハッキリと視界に映る。



「……お前…」

由紀
「…………」


 勝手に…許可もとらずに俺の唇を奪っておいて、勝手にひとりで赤面している。



「…そんなことをする度胸があったのか」

由紀
「………先輩が…泣きそう、だったから…」


「…俺は泣かない。お前と一緒にするな」

由紀
「…ごめんなさい」


「謝るな…べつに問題ない」


 あまりに突然の出来事に拍子抜けしながらも、冷静な言葉を返し、由紀から離れ再び歩き出した。





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