浸染4




 俺が笑い続けるすぐ脇を、洋と美樹のペアが通りがかった。

 気づいてはいたが、笑いを止めることが出来ないのだ。



「おっつかれ〜ぃ」

由紀
「お…お疲れ様です」


 由紀が困っている様子が手に取るようにわかる。そして洋がジロジロと此方を眺めている様子も。

 美樹は気味の悪いモノでも見るように、俺から若干距離をとっているのがわかる。



「ねえねえ由紀ちゃん…コイツ、どしたの?」

由紀
「えーと…説明が…とても難しい…です」


「…ふぅん」









     カシャッ!




美樹
「ちょっ!写メとかいらないから!」


「え、だって。蓮のこういう姿は貴重だよ?」

美樹
「いいから消しなさい」


「…え〜?面白いのにぃ」

美樹
「面白くないわよ!由紀ちゃんごめんね?お疲れ様」

由紀
「あ、はい。お疲れ様でした」



 由紀がペコリと頭を下げて。俺をどうにか写メりたい洋を、美樹が引きずるように連れて行く。

 そうか。こういう俺はそんなに貴重か。まるで珍獣だな。

 しかし、とにかく俺は、笑いが止まらない。

 先ほどの告白や、由紀の号泣に、困惑し続けたストレスなのかと思うほど笑えて仕方がない。


由紀
「…先輩。いい加減やめてください。ちょっと恥ずかしいです」


「くくくっ、お前…よくそんな事が…くふふ、言えるな?」

由紀
「だ、だから、謝ったじゃないですかぁ〜!」


 俺の制服の裾を引っ張って一生懸命に訴えているが、お前みたいなチビが俺をどうにかできると思っているのか。

 馬鹿め。その仕草すらツボだ。



……………


………








 …ずいぶんと笑い続けていた。

 そうこうしているうちに、深夜の市街地には車通りも少なくなって、灯りも多少減ったように感じる。

 久しぶりに笑いを堪えられずにいた俺のテンションはようやく正常な状態に戻りつつあったが…



「……悪かったな。少し遅くなった」

由紀
「…いい加減ニヤけるのやめてください」


「…仕方がないだろ」


 ニヤつく顔だけは戻らない。

 気を取り直して由紀の家へ向かう足を進めると、由紀はそっと俺の制服を掴んだままついてくる。

 まあまあ可愛らしいとは思うが。どうしようか。



由紀
「………」


「……」
(とりあえず返事は期待していない様子だが…何か言ったほうがいいのか?)



「…由紀」

由紀
「…はい」


「この際だから聞くが…」

由紀
「…はい?」


「屋上で話したかった事とは…さっきの告白か?」

由紀
「!」


 ビクッ…と、制服を掴んでいる手が震えた。当たりらしい。


由紀
「……わたし」


「………」

由紀
「………ごめんなさい」


「…?…何故、謝る」

由紀
「…わたし…隠しているのが辛くなったんです」


「………」

由紀
「…それだけなんです」


「…」
(……それだけ?)




(…あぁ。そういうことか)






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