浸染3




 言っておくが…。

 俺は、女であろうと男であろうと泣かれるのは嫌いなんだ。

 例えば泣いて何かを求められるなんて最強に面倒くさい。それと、出来ないからと泣いて済まそうとする奴なんか蹴り飛ばしたいくらいだ。

 だが無意識の涙は…ただ、どう扱っていいかわからない。だから困る。

 そんな俺を理解して必死に堪えようとする涙は、特別に慰めてやってもいいかと思う時もある。

 由紀の涙は、俺を困らせまいと必死に堪えていた涙だと…そう思う。

 だから誰かの真似事であろうと、とにかく由紀を抱きしめてみたんだ。


 まったく。こんな明るい道端で、こんなに大声で泣きやがって…一生懸命我慢した意味が無いじゃないか。
















 どのくらい泣き続けていたのか、時間の経過と共に、由紀の雰囲気が落ち着いてきたように感じた。

 次第に体の震えも無くなって、静かに鼻をすする音と、泣きすぎて呼吸が乱れているのか微妙にしゃくりあげる音が聞こえる。



「……もう話せるか?」


 少し口調を和らげるよう気をつけながら声をかけると、胸元から少し離れ、顔を下に向けたままで返事が返ってきた。


由紀
「……ごめ…なさい」


「……」

由紀
「…せ…ぱいを…………困っ…ら、せる…つも、じゃ…」


「…わかっている」

由紀
「…ぅ……先輩…優しいと…困りますぅ〜」


「困るな。そしてまた泣くな」

由紀
「だって…!」


 …ったく。これ以上こんなとこで泣かれたら迷惑だ。



「それ以上泣いたらどうなるか…わらないわけじゃないよな」

由紀
「!」


 その小さな耳に向け、低く響かせるように囁くと…俺から勢いよく離れ口を押さえた。

 なるほど、どうにか涙を止めようとしているらしい。



「…………プッ」

由紀
「!?」


 その動作があまりにも滑稽で、思わず吹き出してしまった。



「なんだお前のその顔!?クッハハハッ」

由紀
「へっ!?」


 由紀は慌ててハンカチで顔を拭うがもう遅い。

 泣きすぎて赤らんだ顔と、声を上げて笑う俺を見るその拍子抜けした表情が無駄に面白い。


由紀
「……酷いです」


「ふっ、くくくっ…いや、違うぞ?泣き顔を笑ったんじゃない。ふっ、その、が、我慢しようとしている姿が…面白いだけだからな?くくくくっ」

由紀
「なっ!?…だって、先輩が怖いこと言うからじゃないですか!」


 先ほどまでの弱々しい雰囲気は何処にいったのか、由紀は頬を膨らませて怒っている。

 俺はそんな由紀がまたツボで、腹を抱えて笑い続けた。





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