浸染1




 いつも通りの部活。

 開店の準備に忙しい店内。

 違うのは、俺と由紀の距離感…。


 今日も当たり前に由紀を手伝ってはいるが、まったく会話が無いのだ。


一舞
「…喧嘩中?」


 自分のギターを調整しながら問いかけてきた一舞の、その目の辺りが少し腫れぼったい気がする。

 いったい何があったというのか。そんな顔を見れば確かに心配だが、俺に出来る事など無いのはわかっている…。変わらず振る舞おうとしているのなら、こちらも同じように応えるべきだろう。



「…喧嘩になどなると思うか?」

一舞
「どうだろ?でも由紀ちゃん結構ガンコだからな…」


「……」


 まぁ、喧嘩ではないはずだが…



「…そうだな」
(確かに頑固だ…)


 結局、自分から聞いてくれと言ってたはずの話を由紀から聞き出すことは出来なかった。

 おかげでモヤモヤしているし、抱きしめてしまった手前かなり気まずい。

 もしかしたらそのことを怒っているのかもしれないな。

 だが…抵抗なんかしていなかったぞ。


一舞
「蓮ちゃん」


「…ん」

一舞
「眉間にシワ」


「………」

祐弥
「いっつもそんな顔やん」


「……」

一舞
「あ、そっか」

祐弥
「せやろ?ふはっ」


「…調子に乗るなよ赤毛ツインズ」

一舞
「うは、怒ったー」

祐弥
「ははっ怖ないし」


 まったく…一舞はともかく、祐弥にまで調子づかせてしまっているな…。


由紀
「………」


「…」


 まぁいい。このままじゃ気持ちが悪い。

 送る時にでも、嫌な事があったのなら謝ってやるか…。




………………


…………


………








 部活終了後。

 いつも通り、由紀を送る帰り道。まだ一言も会話が無い。おかげでモヤモヤは最高潮だ。



「………おい」

由紀
「………」


 しびれを切らし声をかけるが、応える気などさらさら無いといった様子。


由紀
「…………」


「………おい。聞こえていないはずないだろ」

由紀
「………」


「由紀…返事くらいしろ」

由紀
「…………」


 もう何度も呼んでいるのに、俺の隣で俯いたまま返事すらしない…この態度は黙って許されるものじゃないとわからないのか。



「俺を無視するとはいい度胸だな」

由紀
「………」


「…まぁいい、黙って聞け」

由紀
「………」


「俺が何かしたのなら謝ってやろうと思ったが、話も出来ないんじゃどうしようも無い」

由紀
「………」


「…嫌なら嫌でいい。ここからは1人で帰れ」

由紀
「………」


「じゃあな」


 宣言通り。

 少しも迷う事無く方向転換し、自分の家の方向へ向かおうと、由紀を残し足を踏み出した。






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