心労4 ポケットからミニタオルを取り出し、涙を拭う。その動作が、衣服の擦れる音と、空気の波で見なくても感じとれる。 蓮 「?」 ただ顔を空に向け、目を閉じていた俺は…地面に置いていた手に、別の体温が重なっったのを感じてそれを見遣った。 蓮 「……どうした?」 由紀 「………」 泣き止んで間もない赤らんだ顔を下に向け、由紀が俺の手に触れている。 送りの時に手を繋いでやることも多いから、触れてくることに対して特に驚きはしないが…いつもと様子が違う。 蓮 「…どうしたんだ」 由紀 「…先輩……わたし」 蓮 「……」 由紀 「先輩に、伝えたい事があるんです…」 蓮 「……なんだ」 由紀 「聞いてもらえますか?」 蓮 「………言ってみろ」 由紀 「…………わたし…」 キーン…コーン…… 何かを言いかけたところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く…途端に由紀は黙り込んでしまった。 つい先ほどまで触れていた体温もパッと離れて、立ち上がった由紀の影が俺の上にかかる。 由紀 「授業…始まっちゃいますね」 そう言ってそのまま立ち去ろうとするから、咄嗟にその腕を掴んでしまった。 由紀 「!…あ、あの…」 蓮 「まだ何も聞いていないぞ」 由紀 「………」 蓮 「…そうやって濁されるのは嫌いだと、何度言えばわかる?」 由紀 「…でも…授業が」 蓮 「お前なら単位は充分ある筈だ」 由紀 「…だって……っ」 蓮 「……」 再び苦しそうに泣き始めたが、引き留めた手前、掴んだ腕を離してやることが出来ない。 由紀が話したくないなら聞かないでやればいいのに、濁されるとどうもダメだ。どうしても気になるんだ俺は…。 蓮 「…」 (俺には、お前が泣く理由がわからないんだぞ…) とにかく話す事すら難しい、嗚咽を漏らす背中を引き寄せ…ぎこちなく腕に包む。 驚いたのか、一瞬泣き止んだ由紀を腕の中に感じながら…その体温に癒されている。 そんな自分に少し、驚いていた…。 Novel☆top← 書斎← Home← |