心労2




 昼休み。

 屋上の隅で秋風に身を委ねながら、独り…目を閉じていた。


 もうずっとあまり眠れていない。

 こうしていたからと言って眠れるわけも無いんだが、少しでも無心になりたい…そう思って、こんなことを3年近く続けている。

 どんなに荒れていた時でもこの時間は必要だった。

 一年の頃はよく美樹に邪魔されたが、アイツはアイツで今は洋が捕まえているからな…最近は平和だ。

 そういえばこの前は、一舞が反対側のフェンスの所に立っていたっけな…

 まぁあの時の一部始終は俺も知ってはいるが、一舞の飛び蹴りには笑いを堪えるのが大変だった。おかげで祐弥への怒りも萎えたからな。


 無心になるつもりがそんな事ばかり思い出し、目を閉じたまま微笑んでいる。

 自分でもわかってはいるが、1人の時くらい自然に任せたい。


(風が気持ちいいな…)








??
「……先輩?」


「!?」


 突然の声に驚いて、咄嗟に目を開けた。


由紀
「あ、起こしちゃいましたね…」


「……」
(なんだ…?いつから居たんだコイツ…?)


 壁にもたれて座る俺の目の前に、いつの間にか由紀が座っている。


(新手の邪魔か…)


 少しウンザリした気分が顔に出ているかもしれないが、これも自然なこと…仕方ないな。


由紀
「どんな夢を見ていたんですか?」


「…お前に教えると思うか?勿体無い」

由紀
「…昨日の事は、教えてくれましたよ」


「………そうだったか?」

由紀
「はい」


「……」


 妙に自信がついた様子で、夏休み明けからハキハキと話すようになった由紀。

 良い傾向だが…俺の寝込みを襲うなんて、そんな事を許した覚えは無いぞ。



「…俺は1人で居たい。邪魔するな」

由紀
「ではコレを……受け取ってください」


「………なんだ?」

由紀
「栄養ドリンクですよ。先輩、最近特に疲れていらっしゃるようなので…」


「…………」


 由紀が差し出した子供みたいな手の中に、そっと収まっている小瓶。

 俺は黙ってそれを受け取った。



「……」

由紀
「…ちゃんと休んでくださいね」


「……お前が俺に命令するな」

由紀
「しますよ…心配ですから」


「…随分ハッキリものを言うようになったな」

由紀
「先輩がわたしに自信をくれたからです」


「…そうか。ならば俺に感謝するんだな」

由紀
「してます… たくさん」


「…………」


 柔らかく微笑んで、俺の言葉全てに応える由紀を見ながら…どうにも扱いに困っていた。



「……」
(まぁいいか…)


 会話がスムーズに運んでいくのは良いことだからな…。

 気を取り直して俺は、小瓶の蓋に手をかけた。





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