心労1




 二限目を終えた教室。

 ガタガタと椅子を引く音とザワつく人の声の中、何気なく窓の外へ視線を移すと、窓際の自分の席から、体育の授業を終えて校舎に戻る人の群れが見えた。


(……一年か…)


 グラウンドをパラパラと動く人だかり、体操服の色とその雰囲気で感じる年の差。

 その中に、一舞の赤い髪を見つけ息を呑む。


 相変わらず目立つ、遠くからでもわかる綺麗な髪…キラキラと光を受けて輝く赤い髪は、常に俺以外の誰かが触れてきた物。

 悔しいが、そう考えるだけで…心臓を鷲掴みにされるような苦しさに襲われる。

 ただその姿を見ているだけでこんなに苦しいんだ。いったいどうすればこの心を消化できる?

 夏休みの合宿で諦めると決めたけど、初めてこの腕に抱きしめたあの細い感触さえ未だに消えない。

 実際自分でもどうすればいいのか答えが出ないままだ。

 頑なに意地を張るだけで俺は、何も変えられないまま……涼と何が違う?


(ヒトのことなど言えたものじゃないな…)



「…?」


 一舞から目を離せずにいた俺の視界の端、俺への視線を感じて目標をずらす。



「………由紀?」


 あの地味なオーラは間違いなく由紀だ。立ち尽くし、真っ直ぐに俺を見ている……不自然だ。

 由紀からの真っ直ぐな視線なんて初めてだ。

 アイツはいつもキョドって視線を泳がせるタイプなのに…



「むっ!?」


 あまりの不思議さに目が離せなくなっていると、突然、由紀が俺に向かって手を振り始めた。


(…何やってんだアイツは)



「早く着替えねーと次の授業始まるぞ!」

由紀
「!」


 思わず…デカい声が出てしまった。

 そんな俺に向かって、由紀が一瞬、微笑んだように見えた。

 そしてまた手を振ると校舎の陰に消えて行く。



「……まったく」


 ゆうべのメールもそうだが、今の態度も意味がわからん…。


 でもおかげで…気が逸れた…。







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