休日5




 祐弥のアパートからの帰り道。互いの家への分岐点に差し掛かると、涼が真面目な顔をして呟いた。



「もしも祐弥が、一舞との間に発展を望んだら…俺らはどうしたらいいんだろうな」


「……」
(いったい何を言い出すかと思えば…)


 何の話をしてるんだコイツは、つまらん心配ばかりする。いくらなんでも…アイツだってわかってるはずだ。だから悩んでいるんだろ。



「そういうのを余計なお世話と言うんだ」


「なんだよ…お前は考えないのか?」


「いつまでもガキじゃあるまいし……何かしたいなら、お前がフォローしてやればいい」


「……お前は?」


「……俺は…気持ちを消すと決めたんだ。一切、手出しする気は無い」


「……」


「……何だ」


「……いや」


「……発展なんかしない。翔さんが居るんだ」


「………」


「人の心配ばかりしているが、お前はどうしたいんだ?何にでも首を突っ込んで、振り回されて、結局何も決められない。お前のそういう優柔不断なところが俺はたまらなくムカつくんだ」


「…そうかよ。でも本当にそれでいいのか?」


「…俺の決断をお前が引っ張るな」


「本当に消化できるのか?3年分…苦しんだのに…」


「…決めたんだ……引っ張るなと言っている」


「……俺にはお前の気持ちが」


「やめろ」


「………」


「仲良しゴッコなんか反吐が出る…お前にはわからねーよ。一生独りでやってろ」


「………」


 吐き捨てると俺は、悲しげな涼の顔を背にして自分の家への分岐点でその場を立ち去る。

 こんな言い合い、別に普通の事だ。

 昔はコレで殴り合いにもなったもんだが、今じゃ随分丸くなったな…涼は特に角が落ちてつまらない。

 一舞と別れてからは更に輪をかけて情けないからな。まったく随分と幻滅させてくれる。

 今まであんな奴よりも下に見られていたのかと思うと果てしなくムカついてくる。



「…………」


 とはいえそれでも、気持ちはわからなくもない…。






「?」


 不意にポケットの中で震え始めた携帯電話。取り出した重みに、さっきの涼の言葉を思い出す。


『友達なんだからメールくらいすればいいんだよ』



「……」
(何を言ってるんだ。涼はバカだな…)


 そんなことをしていたら、ますます消えないだろ。

 そもそも俺から一舞にメールなんかした事は無い。

 一舞も、自分から誰かにメールするとしたら女友達か彼氏くらいの筈だ。

 その辺はいくら鈍いお子様だとしても、アイツはハッキリしているんだ。

 涼のやつ…そんな事もわかっていなかったとはな。


 手の中に収まって震える携帯電話の、その表示を眺めながら…小さいため息が漏れた。







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