休日1





「!?」


 よくある古びた木造一戸建て。その二階にある自分の部屋で、貴重な休日をゆったりと過ごしていた筈だった。



「電話!鳴ってるわよ!」


 突然ヘッドフォンをむしり取られたかと思えば、イライラした表情の母親が、目の前で大きな声を上げている。



「…あぁ」


 確かに母親の言う通り、整頓された机の上で携帯電話が騒いでいる。まったく喧しい。



「まったくもー…急に大きな音が鳴るから驚いて洗濯物を落としちゃったじゃない」


「…そういうのは不可抗力って言うんじゃないのか?いくらなんでも俺のせいじゃない」


 俺がそう言うと、一際大きなため息を吐いて母親はその場を去って行く。

 つられて溜息を吐きながら、読んでいた本を閉じ、渋々携帯電話を手に取ったが、確認したディスプレイに涼の名前が表示されていて意味も無くガッカリする。


   ピッ!


「何の用だ」


『暇?』


「…何の用だと聞いている」


『うん。今出てこれるか?』


「悪いが忙しい」


    ピッ!


 貴重な休日に涼の相手など面倒だ。

 そう思い、即座に誘いを拒否したんだが…先ほど傍らに置いた読みかけの本を手に取った途端、再び着信音が響いいたので、若干ウンザリしながらとにかく出る。


    ピッ!


「煩い」


『煩くねーし。つか駅前のファミレスに10分後な』


「忙しいと言っただろ」


『女もいねーのに忙しいわけあるかバーカ。いいから来いよ』


「貴様と一緒にするな。そもそもバカ呼ばわりをされてまで、俺が黙って従うなどと思っているわけじゃないよな?」


『めんっどくせーなもー…一緒に飯食おうぜ♪って誘ってんだから空気読めよ』


「……もう昼か…なるほど。貴様の奢りなら行ってやってもいいぞ」


『なんだ金欠かよ。まぁいいや。じゃ、そういう事で』


「駅前な」


『おう。待ってっからなー』




 なるほど、考えてみれば朝から何も食っていないわけだからな。気怠いはずだ。

 涼もたまには使えるじゃないか。


 通話を終えた携帯電話を閉じると読みかけの本はさて置き、約束の場所に向かうため部屋を出た。



「あら?出かけるの?」


 階下に降りると洗濯カゴを抱えた母親と出くわす。

 仕方がないな。行先くらいは告げておこうか…。



「…涼から駅前のファミレスに誘われた」


「あらそう?涼くんによろしく伝えてね。あ、あと。また遊びにいらっしゃいって言っておいてね」


「憶えていたら…伝えておく」


 洋は美樹のところへ出かけているらしく、何時にもなく静かな我が家だったが、奴が居ないとこの母親は寂しいらしい。

 涼のことが気に入っているのは知っているが、俺にそんな事を言ったところで伝わらないことも知っている筈なのに、無駄な会話だ。


 外に出れば、なんとも言えない快晴の空。
 
 昼時だとわかった途端に腹の虫が喧しい。

 天高く上りきった太陽を恨めしく感じながら、目的の場所へ向かった。






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