明暗4





        ギィ…



 思った以上に重い扉は、多少軋んだ音を響かせてゆっくりと開く。

 中に入ると、予想を遥かに上回る広い玄関。たぶんあたしの部屋より広い。段差が無くフラットな床は、たぶん大理石…でも少し、薄汚れている。

 靴を脱いでいる形跡が無いのでそのまま奥へ進むと、なんだか高そうなツボとか、燭台とか、価値がよくわからない物が並んでいる。

 そのままフラットな廊下を進むと、右手に両開きのガラス戸。どうやらここが、リビングダイニングらしい。

 すぐそばに幅広い階段があるけど、とりあえず後回しで、ガラス戸を開けて中を確認。


一舞
「…」


 恐る恐る足を踏み入れたリビングスペースには、大きなソファーが3つ。全て猫足でピカピカ装飾。でも埃でくすんでいる。

 ダイニングスペースも全く使われていない感じで、いつ飾られたものなのか、大きなダイニングテーブルに飾られた花が枯れてしまっている。無論その奥にあるキッチンも、全く使われた形跡が無い。


一舞
「ほんとに人が居るのかな…」


 つい心の声が漏れると、誰もいない空間にあたしの小さな声が響いた。



(…寂しい家)



 なんだか、豪華な家具も高価な飾りものも凝った内装も、全部虚しい。


一舞
「……まず掃除か」


 ついつい漏れてしまうため息と呟き。香澄のお兄さん…翔さんに、なんとなく同情した。


 学校が終わったらまず、この家を綺麗に掃除しなくては。こんなに薄汚れて生活感が無い空間、それだけで体に悪い。


(だいたいこんなんじゃ料理もできないし…)


 あたしはそう決めて、自分の家に戻った。



















 家に戻ったあたしはすぐに、家族の食事と翔さんの朝食を用意する。

 学校に行く準備も済ませて、パパとママに声をかけ、カバンと食事を持ってお隣へ。

 さっき入った玄関から、今度は階段を早足で上がる。


 階段の中腹で左右に分かれた分岐点を左に曲がり、更に上へと進めば、登りきった先にしっかりとした扉が1つだけ。ここが翔さんの部屋だと香澄から聞いている。


     コンコンッ…


 扉をノックして。


一舞
「おはようございま〜す」


 元気に挨拶。








 返事は無い。




 ドアノブをひねると…




       ガチャ…




 開いている。





 そっと中に入り、翔さんを探す。



一舞
「………」

(…っていうか部屋、広っ!)



 入り口を入ってすぐの所に靴を脱ぐスペースがあり、すぐ左脇にたくさんの靴が並べられている。

 靴を脱いで部屋の中へ進もうと足を踏み入れた視界の左端に、小窓のついた防音らしき扉が映った。

 小窓から中を覗くと、ギターやベースにドラムセットと、たくさんの楽器が所狭しと置かれている。なんか難しそうな機材もあって、本格的な仕事部屋みたいに見える。


(うわぁ……)


 憧れのヴィンテージギターたちに、ついつい見とれてしまうけれど。気を取り直して部屋の中心へと歩みを進める。


 とにかく既に飽きるほどにアチコチだだっ広い大豪邸。だけど、現在の主である翔さんの部屋は、机、椅子…以外、ほとんど物が無い。

 どうしていいかわからず、ぐるっと周りを見回すと。大きな窓にはカーテンすら無く、窓のすぐ側にあるシャワー室に続いているらしい扉は、開け放したままになっている。


(…あ)


 その扉のそばに、ベッドを発見。


一舞
「……?」


(寝てる?…のかな?)


 こちらに背を向けて、眠っているらしい。寝息が微かに聞こえる。


一舞
「…………」




 起こすとか起こさないとか、そんなこんな考えるよりも先に。


 寝息をたてる度、揺れる肩と…金色の髪に…


 ちょっとだけ、見入ってしまっていた…。





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