苦悩15




―――――――side 一舞


「お前…最近よく泣くよな…」


 部活帰りの道。あたしを送りながら涼ちゃんが困ったように呟いた。


 話を終えた後、すずちゃんが眠ってしまっている事に気づいた学ちゃんは、血相を変え慌てて帰って行った。

 弥生ちゃんからの雷に怯えていたのか、相変わらず奥さんには勝てないらしいのが可愛いところだ。

 ていうか、4歳児にあそこまで夜更かしさせるのがそもそも間違ってる。そう思いつつ見送って、みんなと笑いながら手を振って、涼ちゃんと並んで歩いてきたんだけど…油断した途端に涙が溢れてしまって、あたし自身も困っている。

 特に声を上げるわけでも無く、ただ泣けてくる。涙の理由はわかってるけど、何も涼ちゃんの前で泣くことないのにって…こんな自分に呆れてしまう。


一舞
「…先、行っていいよ。こんなの面倒でしょ」





 泣きながら、嗚咽を抑えながら、ぶっきらぼうに言うと…



「ばーか。面倒なんて思ってねーし。慣れてないだけだ…」


 あたしに歩調を合わせながら、前方に顔を向けたままで、そんな返事が返ってきた。



「学さんに何言われたんだよ」


 あたしに話す余裕があるとわかったのか、一番話しづらい話題を振られてしまった。

 とは言ってもこの場合、涙の原因はそこにしか見いだせないというのも事実だから仕方ないのかもしれない。

 でも、どう話せばいいんだろう?


(てか涼ちゃんに話すのって正解なのかな…?)


 いつかの涼ちゃんの言葉を思い返せば、彼氏じゃない相手にはやっぱり距離を置くべき。みたいなこと言ってたし…それに学ちゃんからの話は全てが翔の生い立ちだ。


(いくら幼なじみって言ったって、プライバシーってものがあるよね…)


 スンッと鼻をすすりながら答えを探して黙っていると、目の前に涼ちゃんの手が……いや、何か差し出された?



「こんなんしかねーけど…」


 涼ちゃんのその手には、ライヴの時に使っていたタオルが握られている。



「…あんま綺麗じゃねーけど」

一舞
「…………ありがとう」


「………うん」


 ハンカチくらいあたしだって持ってるし、必要なら取り出して使うんだけど。なんだか受け取らないと悪い気がしてそのタオルを受け取った。


 涼ちゃんは昔から優しい。

 周りをよく見てるようでいて鈍いし、たまに対応しづらい時もあったりするけど…いい奴だ。

 だけどやっぱりあの話を今するべきじゃない。


一舞
「学ちゃんからの話は、先に翔と話したいから…ごめんね」


 少しだけ涙を拭って涼ちゃんの方へ顔を向けて、さっきの質問の返事をした。



「………」


 振り向いた涼ちゃんは一瞬…ちょっとだけ驚いた顔をしたけど、次の瞬間には優しい笑顔になっていた。



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