苦悩13




―――――――side 蓮

(一舞は子供が好きなのか…それにしてもあの一舞は可愛かった…)


 いつも通りの部活帰りの道。

 学さんの娘とじゃれていた一舞の姿を思い出し、高鳴る胸を抑えられない。まったく、忘れようと思っているのに酷い仕打ちだ…。


由紀
「………」


「!」


 ふと、由紀の視線が突き刺さり我に返る。


(…そうだ。今は由紀を送っている最中だったな)


 自分の未練たらしさに若干の恥ずかしさを覚え、誤魔化すように居住まいを正すと…


由紀
「…はぁ」


 隣から盛大な溜息が聞こえてきた。



「…なんだ、そのため息は」

由紀
「べつに…なんでもありません」


「…なんでもない奴がそんなにワザとらしくデカい溜息を吐くか」

由紀
「…疲れただけです」


「わかっているとは思うが…俺は嘘は嫌いだ。言いたい事を濁されるのも嫌いだ。何かあるなら言った方がいい」

由紀
「……」


 こんなことは今の由紀なら言わなくても分っている筈だが、敢えて口に出してみるのも今は必要なんだと判断した。すると途端に由紀が雰囲気を変える。

 いったい何故なのかは不明だが、拗ねているのは確かなんだろう。気に入らないことがあるなら言えばいいんだ。



「…」

由紀 
「…先輩は……」


「…なんだ」

由紀
「…」


「…」

由紀
「………やっぱりいいです」


「…なんだ。言いかけてやめるな。気になる」

由紀
「いいんです……気にしないでください」


「…まったく。拗ねるにしてももっとやり方があるだろう」

由紀
「なっなんでですかっ何に対して拗ねる要素がっ!」


「ほら」

由紀
「………」


「?」


 目の前に差し出した俺の手を由紀はジッと見つめて固った。

 更には固まったまま、その手を取ろうともせず、拍子抜けしたようなおかしな顔をしている。


(…いったい何が不満なんだ?)


 受け取ってももらえない俺の左手が、行き場を無くして虚しく重力に負けていく。

 まったくなんて奴だ。せっかく優しさを絞り出してやったのに。そう思って由紀の顔を再び見やると…


由紀
「…………………」


「…な…何故泣くんだ」

由紀
「…泣いてません」


 ポロポロと涙を流しながら間違ったことを言っている。天の邪鬼キャラなんか持ち合わせていたのか…知らなかった。

 とにかく困った。この場合、俺はいったいどうすればいいんだ?


(泣かれるのは苦手だと知ってるくせになんて奴だ…)



「…どうしたんだ」

由紀
「……ぅ…ふ…」


「…」


 ダメだ。理由も言わずに泣き始めて、話しかければその涙の勢いも増す。訳が分からない。



「……あー。もうわかった。泣いてないってことにしてやるからとりあえず歩け」

由紀
「きゃっ!?」


 無理やり由紀の腕を引いて歩き出す。

 とにかく今の状態はあまり良い光景じゃない。誰かに見られるのも困る。特に由紀の家はかなりの市街地にあるから、この状態のまま明るい道を歩くのも気が引ける。

 ゆっくりと。由紀が転けない程度になるべく急いでビルの隙間に隠れると、その小さな体を自分の影に隠した。

 もし、洋のペアなんかと遭遇したら厄介だし、せめて泣き止ませたい。そして俺は少し考える。

 由紀が泣いた理由を…泣き止ませるための方法を…


(考えるんだ!俺!)




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