苦悩12




―――――――side 祐弥

 ライヴ終わりから小一時間。

 バンド部内では新人で一番下っ端扱いの俺は、一番最後まで細かい後片付けと来週の準備をしていた。

 すべての段取りを終えて戻ると、慎一と綾が、カウンター席を見つめてなんや難しい顔して立っとって…その目線の先には、夜のライブハウスには似つかわしくないチビッコと遊ぶ洋さん達の姿。

 そこから少し距離をとって、カウンター席に派手なメッシュ頭の兄ちゃんと俯く一舞の姿がある。


祐弥
「なぁ…どないしたん?」

慎一
「あぁ、お疲れ様。なんか取り込み中みたい」


「マジ気持ち悪い…」

祐弥
「え?あ、さぶいぼ出とるやん…」

慎一
「そうなんだよ、今日も怪奇現象継続中」

祐弥
「ふーん」


「今日は弥生さんから子守任されたらしいっすよ」

祐弥
「へ?」


「ほら…あのちっこいのが、オーナーと弥生さんの愛の結晶」

慎一
「全く似てない。可愛すぎる」

祐弥
「ほんまやな」
(てか弥生さんて、既婚の子持ちやったんか…)


 あの家系はなんや年齢不詳もえぇとこやな。

 それにしても気になるんは一舞の雰囲気や。なんでかめっちゃ悲しそうやねんけど…。


祐弥
「…怒られてんちゃうん?」


「んー…そういうんじゃ無さそうっすね。オーナーの方が珍しく遠慮してたんで」

慎一
「そうなんだ?」


「そうだよ…あー、今夜は雪になるかも?」

慎一
「へ〜…それはそうと祐弥。作戦は進んでる?」

祐弥
「は?」

慎一
「ん?」

祐弥
「なに?てかアレ…マジなん?」

慎一
「マジだよ。なに?まだ実行してないの?」

祐弥
「だから何で俺やねんて。意味わからんことさすなや…」

慎一
「簡単なことじゃん。接触する回数を増やせばいいだけ」


「……何の話?」

祐弥
「うー…綾、助けてくれ」

慎一
「綾は、めぐみの好きな人知ってる?」


「ん?…祐弥先輩じゃないの?」

祐弥
「…」

慎一
「ほら。意味わかったでしょ?」

祐弥
「お前…俺の気持ちはどうなんねん」

慎一
「大事なイトコのためにひと肌脱げって言ってるのがそんなに気に入らないかな」


「へー。祐弥先輩は一舞っすか」

祐弥
「いやいやいやいや!そもそもそんなんちゃうし!」


「違うんすか?」

祐弥
「…だって、イトコやもん」

慎一
「じゃあ問題ないじゃん」

祐弥
「大有りや、そんな人の気持ち玩ぶみたいな…」

慎一
「案外真っ直ぐなんだね…」

祐弥
「あのなぁ、俺をどないな人間やと思てたんお前?酷ない?」


「つーか早く用意しないとめぐちゃん先輩帰っちゃうっすよ?」

祐弥
「…」


 綾の言う通り、ホール内を掃除しとった筈のめぐちゃんは、帰り支度を整えて出口に向かっている。いきなり引き留めてきた広夢になんや文句言うてる姿も確認できる。


 せやけどなんでなん?

 めぐちゃんが俺を好きやとかそんなん、みんなの推測に過ぎひんやんか…。

 一舞の彼氏の件から注意を逸らすとか言うて、単純に面白がってるだけちゃうの?

 だいたいめぐちゃんが一舞に何をするっちゅーねん。わけわからん。


 心の中で色々と文句を吐き散らかしながら、それでも深夜に女子一人で帰らすんも心配やって、渋々声をかけてみる。

 送るよと言う俺に、めぐちゃんは少し驚いた様子で、でもちょっとだけ嬉しそうに頷いた。


(これでええんやんな?)




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