苦悩10 鈴香 「か、かずちゃん、あのね?」 一舞 「ん?」 何かを訴えたい様子のすずちゃんに気づき腕を緩めると、ぱたぱたと可愛らしい足音を響かせて学ちゃんの足元に戻っていく。 いったいなんだろう?と首を傾げるあたしに向かって、真剣な眼差しですずちゃんはこう言った。 鈴香 「がっくんのなやみきいてあげて」 学 「は!?」 一舞 「…へ?」 それはそれは必死な表情で、様子のおかしい父親を心配している4歳児。なんて良い子なんだろうか。 しかしコレは困った。敢えて避けたいと思っていたのに、こんな風にお願いされてしまうと断れない。 学 「すず?俺はべつに悩んでるわけじゃ…」 鈴香 「うそつきはだめ!」 学 「…」 鈴香 「やよいちゃんもしんぱいしてるし、すずも、がっくんげんきないのやだ」 一舞 「…」 要するに。子供の前でも隠せないほどに、学ちゃんの様子がおかしいのだということだ。 すずちゃんが我が儘を言うなんて珍しいと思ったんだ。きっと、あたしと話せば学ちゃんに元気が戻ると信じていたんだろう。 一舞 「すずちゃん…」 鈴香 「…はい」 一舞 「わかった。がっくんとお話してみるよ」 鈴香 「ほんと!?」 一舞 「うん。だからもう心配しなくて大丈夫だよ」 鈴香 「うん!」 学 「…」 一舞 「じゃあお話してる間、すずちゃんは、あのお兄ちゃんたちに遊んでもらおうか?」 そう言ってあたしが偶然に指差したのは蓮ちゃんだ。 蓮 「むっ?…俺、は、無理だぞ」 ビクッと肩を震わせて、物凄く困ると言いたげな…男前が一瞬でぶっ飛んでしまった面白い表情で慌てて拒否されてしまった。 (…なんだよ蓮ちゃん、子供も苦手なの?) なんだか必要以上にガッカリだな…。 洋 「じゃあお兄ちゃんと一緒に探検行こうか?」 一舞 「!」 (お?) 鈴香 「お…おにぃちゃんの、おなまえわ?」 洋 「《ようくん》っていいますよ〜よろしくね」 鈴香 「うん…ヨウくんわ…かずちゃんとなかよし?」 洋 「もちろん♪」 一舞 「…」 (さすが洋ちゃん。子供の相手もできるとは…ホント対照的だな、あの双子) 美樹 「すずちゃん。お姉ちゃんも一緒に行っていい?」 一舞 「…」 鈴香 「…えっと」 突然の綺麗なお姉さん登場ですずちゃんが戸惑っている。面白い。 洋 「このお姉ちゃんは、美樹ちゃんっていって、ヨウくんの彼女だよ」 鈴香 「ふ!わぁ…!かのじょ……!!」 香澄 「あはっ《彼女》に反応してる。可愛いー」 一舞 「ふふっ」 (あたしも香澄に同感) みんな揃ってすずちゃんの可愛らしい反応に釘付けだ。あたしもまだ、そんな彼女を眺めていたかったんだけど… 学 「…」 一舞 「…さて、お話しましょうか?」 黙る学ちゃんを促して、約束通り2人で話すことにする。 みんなから離れておもむろにカウンター席に座ると、学ちゃんはまだ迷っているのかコッチを見たり目線をそらしたり、なんだかソワソワと落ち着きが無い。 綾 「…あたしも席外したほうがいっすかね?」 学 「お…!?…なんだ綾、居たのか」 何故か綾を見て必要以上に驚いている…変だ。 綾 「何言ってんすか。いつも此処にいるじゃないすか…まぁ、手短にお願いしますよ」 綾の言う通り「何言ってんすか…」って感じだ。 だってここは綾の仕事場なんだから、いつも居るんだよ学ちゃん。 綾は呆れた顔をして、同じく呆れているあたしにチラッと目配せし席を立った。 綾が慎ちゃんのところへ行ったのを確認すると、学ちゃんは覚悟を決めたのか、静かに話し始める。 どんな話になるのか、なんとなく予想はついてるんだ…。 でもこうなったからには、あたしも覚悟を決めなくちゃ…。 Novel☆top← 書斎← Home← |