苦悩4 ―――――翌日…[CLUB.J.S]―― 由紀 「あっ!富田先輩それは!」 広夢 「ん?わっ!?」 ガッシャーン!!! 蓮 「富田テメー!何やってんだ!!」 涼 「余計なことすんじゃねー広夢コラァ!」 広夢 「ひっ!すすすんませーん!!」 照 「あーあー…」 洋 「なにやってんだか…」 毎週のライヴにも慣れが出始めた今日この頃。今日も広夢くんが怒鳴られている。 ベテランの《APHRODISIAC》とは違い、機材に替えの効かないあたし達。 由紀ちゃんが丁寧に管理してくれているそれらを、危うい状態にしてしまいかねないのが今の広夢君で、あの2人にいっぺんに怒鳴られては可哀想だと思いつつちょっと困っていた。 蓮 「ライヴを壊す気か!何度言えばわかる!機材は由紀がきちんと管理してるんだ!貴様は触るな!!」 広夢 「うっ!はい…」 由紀 「せ、先輩…富田先輩はっ」 蓮 「由紀は黙ってろ!」 由紀 「でもっ」 涼 「ちょっ!一舞のギターじゃねーか!お前コレそこらで手に入るようなモンじゃねーんだぞ!」 広夢 「……え」 由紀 「あのっ」 一舞 「あー…っと、ちょっと見せて?」 由紀 「……傷は無い、です。他も見た感じ異常なしですよ」 一舞 「うん。でも一応。まだ時間あるしもう一回調整してくるよ」 由紀 「お手伝いします」 一舞 「広夢くん大丈夫だよ。涼ちゃんも蓮ちゃんももう怒鳴らない。士気が下がっちゃう」 蓮 「…」 涼 「…」 広夢 「…ごめんね」 一舞 「うん。大丈夫だから。あとよろしく」 広夢 「…はい」 慎ちゃんの采配でなんとか纏まってきた新生バンド部だったけど、オーナー不在のライヴ運営はなかなか難しく、こういう失敗は付き物だった。そして、その尻拭いの方法も不明確なまま作業を進めなくてはならず、一つ一つのライヴのためにいつも現場はピリピリしていた。 広夢くんだってそれは、いくらなんでも分っていたはずだ。それが何故こういう失敗に繋がるのか、ふと疑問に思った。 一舞 「そういえば広夢くんはなんでステージに居たの?」 他のメンバーよりも余裕のある副部長職。その理由は、部長の目の届かないところをチェックする役割があるからだ。 オールマイティーに現場全体を見渡し指示を出す部長の裏側でのサポートが主な仕事。もしかしたらステージにそれがあったのだろうか?それも毎回? 由紀 「それが…最近急にお休みする人が多くて、毎回セッティングに人手が足りないらしいんです」 一舞 「…?」 由紀 「機材だけならわたし一人で大丈夫なんですけど、蓮先輩も余裕があれば手伝ってくれますし…」 一舞 「うん…」 由紀 「ただ、わたしから蓮先輩に、他に回ってもらうように言わなければならなくなってきて、それを見た富田先輩が、わたしを手伝ってくれていたんです」 一舞 「…」 ちゃんと副部長の仕事してるじゃない。そう思った。 あたしは毎回、ギリギリまで機材室に残って機材の最終チェックをしてるから知らなかったけど。 (これからは少し急いで切り上げて、ステージの方も手伝うようにしよう) と、反省した辺りでドアがノックされた。 由紀ちゃんが扉を開くと慎ちゃんが立っていて、なんとも気持ちが悪いんだと顔で訴えている。 一舞 「どしたの?」 由紀 「また何かありましたか?」 慎一 「うん。ある意味事件だよね」 一舞 「なにが?」 慎一 「…とにかく一舞に来て欲しいんだけど」 由紀 「いいですよ。あとはわたしが調整しておきます」 一舞 「うん…ありがとう」 とにかく由紀ちゃんに後を任せて、機材室からホールに移動した。 ホールの入口に辿り着くと慎ちゃんがカウンター席を指さす。 つられて見遣ったそこには… ![]() 一舞 「わ…何かいる…」 慎一 「何かって、オーナーだから」 一舞 「ねぇねぇなんであんな静かなの?超気持ち悪いんだけど」 慎一 「いやそれ俺が聞きたいんだよね〜」 2人して、その姿を確認するや物陰から出ることもできずアワアワしていても仕方ないのだけど、それはあまりにも異様だ。 ましてやステージでは先ほどからあんなに騒いでいたというのに、ボンヤリとその方向を見つめているだけで微動だにしない学ちゃんなど見たことが無い。 (うわー…) カウンターの向こうからは、綾が助けを求めるような目でこちらを見ている。 まるで亡霊のようなその雰囲気を、あたしにいったいどうしろというのでしょうか? Novel☆top← 書斎← Home← |