苦悩3




―――――――――side 一舞――――数日後…[藍原邸]――――

一舞
「ちょっ…ちょっと待って…」


「…なに?生理中?」

一舞
「ちっ!違うし!」


 バタバタと騒がしかった二学期の始まり。あれから数週間が経ち、翔とあたしの関係は良好だ。

 ただ。日を追うごとにレベルアップする関係はある意味、修行なのかもしれない…とか、妙な事を思ったりする。

 体を重ねる行為にも幾分慣れてきた筈だし、翔だってそれなりにあたしに合わせてくれているんだろうけど、やっぱり恥ずかしさはなかなか無くならなくて、今日も今日とてジタバタしている。


 いつの間にか《APHRODISIAC》のレコーディング作業は完了。代わりにプロモーション活動と言う名の無料ライヴ巡業が始まっていた。

 同時進行で行われていた教育実習もようやく終わり、ライヴスケジュールの合間を見つけては会いに来てくれる優しい彼氏。

 もう先生じゃないから遠慮しなくていいとか怖いことを言いながら、あたしが油断した隙を見つけてはくっついてくるのがなんとも慣れない。


(まぁそれはそれで嬉しいんだけどさ…)


 この人がいつ遠慮なんかしていたのか教えてほしい。という疑問はさて置き。今日はまた一段と押しが強い彼に、どう対処していいやら困った状態だ。


一舞
「そっ、そういえばさ?」


 手慣れた動作で、いつのまにやら素早く衣服をはぎ取られ、それでも尚、抵抗を試みてみるあたしの声に、翔はやれやれといった様子で顔を上げる。



「…なに」

一舞
「えっと、ほら、もうすぐ、透瑠くんの最終選考の日だよね?ね?」


「………」

一舞
「気にならない?」


「…別に」

一舞
「なんで?」


「アイツが1位に決まってる」

一舞
「…あー」


「もういい?」

一舞
「やっ!やっ…ぱり、応援には行けないのかな…」


「………」

一舞
「………」


「…アイツが来るなって言ってんだし。行かない」

一舞
「……」


「それより今はコッチが大事」

一舞
「え?ふわっ!?ぅキャー!!」


「そんな悲鳴上げなくても…」

一舞
「だって!だって!今何しようとしたの!?」


「…え…普通じゃね?」

一舞
「…ふ、普通…なの?」


「そう。普通。だから頑張れ」

一舞
「え!?やっ!ちょっ!ももももっ!いやー!!」














 ギャーギャーと大騒ぎしながらの抵抗も虚しく、次第にその力も失せて、身を任せるしかなくなる自分がまだ恥ずかしい。

 いったい何時になればこれが自然に受け入れられるのだろう。



「…声、聴かせて」

一舞
「…っ」


 素肌に感じる体温は凄く幸せで心地いい。それを素直に面に出せばいいのに、出来ないあたしはまだ子供なのか。

 とはいえそれも最初だけ。

 甘い言葉なんか彼の口からは出ないけど、言葉は無い代わりに熱と一緒に伝わってくる気持ちが、堪らなくあたしを幸せにさせる。余裕も無く押し寄せる快感に身を任せながら、抑えきれなくなった吐息と共に零れていく声は、自分で思うより自然なものになっているのかもしれない。

 そしてそんな時、潤む視界に映る彼の顔がとても好きだ。

 幸せそうな表情、全身で嬉しいと、愛しいと言ってくれているような…。それが嬉しくて泣きそうになるのはやっぱり、あたしも彼を愛しいと思っているから。

 いちいち大騒ぎするあたしを、事も無げに優しく包んでくれる翔が好き。

 その手も声も体温も、彼を形成する全てが大好き。

 そう、大好きなんだ。だから大丈夫。もっと一緒に幸せ感じよう。

 自分からも何か伝えたい。そんな一心で両手を伸ばし、そっと彼を引き寄せた。




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