不安10




 午後5時。


 ライブ前のミーティングが終わり、早くからみんなが集まったおかげで店内は既にイベントのコンディションが整っていた。

 客入れはまだだけど。あたしは一応、ステージに立つ側の人間として控え室で待機しているところ。

 ステージ衣装に着替えて、控え室に設置されたテレビを見ている。


(土曜日の夕方って、あんまり面白い番組やってないな…)


 革張りのソファーにもたれて画面をぼんやり見ていたら、雑誌をパラパラめくりながら、洋ちゃんが話しかけてきた。





「…一舞、良いことあったでしょ?」

一舞
「ん?…え?」


「なんか今日は一段と可愛いなぁと思って」

一舞
「…そ…そう?」


 何故なんだろうか?

 もしかして洋ちゃんにも気づかれてる系ですかね?




「ふっ…。そんなフェロモン放出しまくってたら蓮がソワソワしちゃうよねー」


「なんだと?」


「あ、蓮くん居たの?てか顔赤いんですけどー?」


「…一舞、気にするなよ」

一舞
「…なんだ。双子漫才か。あたしを巻き込まないでくださ〜い」


「一舞が絡むと蓮が面白くなるんだもん。くくっ、暇つぶしにいかがですか!?奥さん!」

一舞
「なにそれ?誰に言ってんだっつーの」


 なんだかよくわからないけど、ちょっとだけ赤くなってる蓮ちゃんを、洋ちゃんがからかって遊んでいる。それほどに今は暇なのだ。



一舞
「…ふぅ」

(悟られたわけじゃなくて良かった)



 なんて安心した瞬間…



「でもホントに今日は雰囲気違うよね?」

一舞
「えっ?」


「…だな」

一舞
「…えっと…どの辺が?」


「…………ん〜………」



 雑誌をパタリと閉じ、あたしの全身をジックリと見る洋ちゃん。



一舞
「???」



 そして、人差し指をピッと立てたと思ったら。




「腰周りかな?」

蓮&一舞
「はっ!?」


「あははははステレオ!てかてかマジだって」

一舞
「なにが?」


「だって今日の一舞は、なんとなくふんわりとまぁるい感じなんだよね。特に腰回りが。だから、その衣装が今日は合ってないなーって」

一舞
「………」


「…そういう目線かよ」



 はぁ…っと、あたしと蓮ちゃんのため息がまた、ステレオで響いた。



「まぁ…衣装はともかく、要するに、今日の一舞は女臭さが一段と強いんだ」


「やだ、蓮くんのエッチ」


「貴様、いい加減にしろ」

一舞
「………」


 …あぁ、なんだか居たたまれない。

 女臭いとかフェロモンとか、あたしを見てそんなこと言わないでほしい。




 ちょっとだけ居づらさを感じているあたしを後目に、似ているようで似てないようで、ホントはそっくりの双子が漫才を続けている。


 あたしは再びテレビ画面に目線を戻した。





       ガチャ…







 少しして。双子とあたしの3人だけだった控え室のドアが静かに開き、涼ちゃんと照ちゃんが入ってきた。

 涼ちゃんはすぐに、双子漫才の間に割って入る。




「なになに?蓮がどうしたって?」


「蓮がいちいちエロくて一舞ドン引きだったん、ぷはは!」


「蓮はムッツリだからなー」


「それは貴様だろうが!」

涼&洋
「いやー!蓮くんコワ〜い!」



     ギャハハハ!




 室内に響く笑い声。

 可哀想に、蓮ちゃん集中攻撃だ。

 そんな三人を眺めていると、スッと衣擦れの音がして、照ちゃんが静かに隣に座った。


一舞
「お疲れ」


「おぉ。…なんだ?今日はなんか違うな?」

一舞
「…照ちゃんまで変なこと言わないでよ」


「ん?そんなにみんなから言われてんのか?」

一舞
「言われてる」


「ははっ、じゃあ見間違いじゃなさそうだな」

一舞
「どうせなら見間違いであってほしい」


「なに?慣れなくて困ってんのか」

一舞
「まぁね」


 あたしが苦笑いで答えると、照ちゃんはフッと笑ってテレビ画面に目を向ける。



「そういえば透瑠くんから連絡来てるか?」

一舞
「……ううん、最近は全然」


「そうか…じゃあ知らないんだな」

一舞
「え?何?どうかしたの?」



 照ちゃんの言葉に悪い予感がよぎって慌てて詰め寄る。




「あー違う違う。透瑠くん、本戦出場が決まったんだと」

一舞
「……え?」


「…コンクール。最終選考に残ったんだよ」

一舞
「凄い…………………なんだ良い話じゃん、ビックリした〜」


「…その様子だと、詳しい事は聞いてるんだな」

一舞
「…まぁ…翔からそれとなく」

(本人からもね)



「そうか」

一舞
「……」


 照ちゃんも、透瑠くんの体のこと、わかってるんだ…。でも良かった。元気に頑張ってることがわかったし。



 パッタリと、メールも電話もしてこなくなった透瑠くんの吉報。

 なんだか自分のことみたいに嬉しく感じていた。





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