不安8





      ガタガタッ





一舞
「ん?…あはっ」




 結局眠れなかったあたしは、一人で先にシャワーと着替えを済ませ、朝食の準備をしていた。

 出来上がった料理を持って翔の部屋まで戻ってくると、ベッドはもぬけの殻で。彼が起きてシャワー室に入ったのだとわかる。

 持ってきた朝食をテーブル代わりの木箱に置いたあたりで、先ほどの物音。


一舞
「…くふふっ」


 原因はわかってるんだ。

 ほら、もうすぐその扉から、飛び出してくるよ。



        バタンッ!!



「…!」

一舞
「あ、おはよー。くふふ」


「…お前これ…なんのつもりだよ」

一舞
「ん?何がぁ?ふひひ」



 とてもお困りの表情でシャワー室から飛び出してきた彼。そのなんとも言えない表情が、どうにも可笑しい。


一舞
「斬新な髪型だね」


「ったく…ずいぶん余裕あんじゃねーか」



 綺麗に短く切られていたブロンドの髪。

 彼が眠っている間に、あたしはそれを、小さく無数に編み込んでみたのだ。



一舞
「可愛い」


 文句を言いたげな顔で傍に来た翔の頬に、にんまりと微笑みながら触れた。



「可愛くない。これ…ほどいてくれよ」

一舞
「えー?なんで?」


「なんで?じゃねーし…」

一舞
「あは、ごめん」


 本気で困っているらしいので、仕方なく、編み込んだ髪をほどいてあげることにした。






 なんて言ったらいいのか。

 これはちょっとした照れ隠しのつもりで…。


(わかってもらえたらいいんだけどな…)






「お前って、ホント……面白いな」


 編み込みを解いてもらいながら、安心したのか男前な微笑みを浮かべているけど。やっぱりちょっと可愛く想えて、吹き出しそうになったのは内緒。


一舞
「はい、解けたよ。シャワー終わったらご飯食べようね」


「あぁ…久しぶりだな一舞の飯」

一舞
「…」

(あ。凄くうれしそうな顔…)


 この幸せ…夢じゃないよね…?







「…で?」

一舞
「え?」



 そっとあたしの腰に手を回し、上目使いの表情。

 うっかりほだされそうになったのだけど…




「飯終わったら、続きする?」

一舞
「はっ!?」




 上目使い可愛いとか思ったけど却下!

 獲物を捕まえた狼の、食事前みたいな顔してるし!


一舞
「しません!」


「なんだ…残念」

一舞
「………」

(…実はこういうキャラだったのか)



 今まで知らなかった翔の一面。

 きっとこれは、恋人だからこその特権で、付き合うとはこういう事なんだろう。 

 あたしはちゃんと、翔の彼女…できてるんだよね?そう思っていいよね?




 ゆうべ、翔の顔を見るまでは…振られちゃうかもって思ってたから。



 今、本当に幸せだよ。





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