不安7




一舞
「……ん〜…」


 澄んだ空気と、窓から差し込む月明かりで目を覚ました。

 まだ寝ぼけた状態で、視界に入った天井をぼんやりと見やる。そしてほんの少し、自分の体に違和感を感じて、向きを変えようと顔を横に向けた。




(!!!)



 現れたのは、月明かりに照らされた翔の寝顔。



     ガタタッ!!


 これはまったく心臓に悪い。

 思わず壁際に飛び退いて、大きな物音を立ててしまった。



 いまいち記憶が曖昧だ。

 順を追って経緯を辿ってみなければ。


(!?)


一舞
「え…ちょっ」


 そんな冷静な判断を吹き飛ばす次なる事件は、翔の寝姿。

 飛び退いた勢いで肌蹴た布が、その全貌を知らしめたのだ。


 あたしが出入りするようになってからはいつも、パジャマ代わりのTシャツを着てくれていたはずなのに。

 今、目の前に居る彼は、たぶん全裸だ。


 慌てて彼の体を毛布で隠す。


一舞
「…?」

(!!!!!!!)


 そして瞬間的に気づいた。彼だけじゃない。自分もそうなのだ。

 あまりの事に次の行動を見失う。








 
 こんな…落ち着き払った文章では表現できないほどの、あたしのテンパり様が伝わるかしら…。

 こうなるまでの一部始終が意図せずフラッシュバックしてしまうこの恥ずかしさが、伝わるかしら…。



(もっ、ももっ、無理無理無理!)











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※しばらくおまちください・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
































(うぅっ…恥ずかし死にしそう…)



 とりあえず、再び毛布にくるまってはみたものの、翔の方へ顔を向けたまま、体が強張っている。

 見なければいいとかそういう問題じゃない。たとえ目を瞑ったとしても、あまりにも鮮明な記憶が蘇るから、心臓がバクバクと早鐘を打って、全然冷静になれないのだ。


一舞
「………」



 スースーと寝息を立てて、幸せそうに眠る翔の顔…。

 見つめていると、胸のドキドキがどんどん種類を変えていく。そして、触れられていた時の感覚が蘇って、恥ずかしさで混乱してくる自分をどうすることもできず。でも、それと同時に襲ってくる幸福感で、なんだか涙が出そう…。




「……ん〜………」

一舞
「…っ!?」


「………スー…」

一舞
「………っ」

(もー!…寝返りうつならそう言ってください!びっくりするから!)


 などと、良くわからない言いがかりはなんとか脳内に留めておくことに成功。もし叫んでしまっていたら起きてしまうじゃない。そうしたらどんな顔をしていいやらわからない。まったく危ないったら。



 あたしより6つ年上で、きっとこういう事にも慣れてるらしいその顔…寝顔は少し子供っぽくも見えて可愛い…とか思う。


 長い睫と、きれいなラインを描く鼻筋。

 キラキラと柔らかく光を受けて煌めく髪と、透き通るような肌。

 羨ましいくらい綺麗だ。


 そんな姿を見ていると、なんだか夢の中にいるみたいにも思えてくるけど…あたしの耳に優しく響く寝息は現実だ。


一舞
「……」


 うつ伏せに寝返って、頬杖をついて、翔を眺めると、その安心しきった寝顔のおかげで、さっきまでの混乱やドキドキは和らいで…代わりに、愛しさが込み上げてきた。


(初めて会った時も、翔は眠ってたんだっけ…)



 翔が…あたしとこうなることを望んでるんだって気づいた時、正直ホントに戸惑った。

 自分がどうなってしまうのかわからなくて怖かった…

 だけど今は…

 女の子に生まれてこられて良かったって思う。

 翔の前でなら、弱くてもいいんじゃないかって、そう思える。


一舞
「……………」

(それにしても起きないなぁ…)


 というか、なんて無防備な可愛らしさなんだろうか。

 すぐ隣であんなにジタバタしてたのに、まったく起きる気配が無い。


一舞
「……」

(…可愛い)


 呼吸するたびにゆっくり揺れる金色の髪に、あたしはそっと、手を伸ばした…











(あ、意外…)


 猫っ毛だと思い込んでいたブロンドの髪は、一本一本がシッカリしている。

 みんなのように、色を変えたりアイロンで髪形を作ったりしないからなのか、全く痛みが無く艶々だ。


 スウっと指を通してみると、指先に感じる滑らかな感触。


一舞
「…ぁ」

(そういえばこれ…)


 夢中だったからなのか、すっかり忘れていたけれど…

 あの間ずっと、あたしはこの髪を、自分の指に絡めていた。

 とにかく、指に絡めたこの髪ごと、彼を何度も引き寄せては、必死にしがみついていた。


(…!!)


 思い出した途端に押し寄せる恥ずかしさは、どうすれば正常に戻るんだろうか。


(うー………翔のせいだ…)


 時間はゆったりと流れていく。

 どうにも眠れないあたしは、目の前の可愛い生き物に一喜一憂しながらも、その髪を撫でながら、指先から感じる幸せを噛みしめていた。





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