不安6




―――――――side 一舞

(翔…少し痩せた…?)


 会いたくて会いたくて、ようやく会えて。嬉しくてその首にしがみついた。


一舞
「…大好き」


「………うん」

一舞
「…大好きだよ」


「…わかってる」

一舞
「それも知ってるけど…大好き」


「……俺も、な」


 普段ならこんなに簡単に口に出来ない愛の言葉。

 照れも無く言えるのはなんでだろう…。


 あたしの肩に顔を埋めるようにして、しっかりと背中に回された彼の腕が、不安も寂しさも無かった事みたいに包んでくれている気がする。



「…だいぶ、待った?」

一舞
「…うん………早く会いたかった」


「…ごめん」

一舞
「…ううん」


 首元に触れる彼の吐息がくすぐったい。けれどそれさえも幸せだ。

 離れたくない。このまま溶けたっていい。そう思ってしまうあたしは、少しおかしいかもしれない。


(!?)


 どのくらいそうしていたのか、徐々に彼の様子が変わってきたように感じ始めた。



「…」

一舞
「…」

(…あ、あれ?)


 吐息、だと思っていた感覚が、どんどん違うものになっていく。


(!…わ…わゎっ……うそ…)


 首筋に触れる少しだけ湿った感触。それがどういう事なのか、いくらあたしでもわかってしまう。


一舞
「…っ」

(どっ……どうしよっ…!)


 恥ずかしさのあまり堪えようとすればするほど、敏感になる神経。体の芯を支配されるような未知の感覚。


(…こわ…ぃ)


 怖い。たぶんそれで合ってると思う。


一舞
「…っ…っ」


 全身が強張って、翔の肩に食い込んでいる自分の指さえ恥ずかしい。

 嫌とかいうのとは違うし、そうなることを望んでいなかったわけでもない筈だから、抵抗するという選択肢は無いんだけど…

 抵抗しないあたしの、背中に感じる翔の手や優しく噛みつく唇が別人のように思えて、恐怖心が拭えない。



「…我慢するな」

一舞
「…っ、だって」


「…………」

一舞
「……?」


 あたしの反応に困ってしまったのか、体を離し、顔を覗き込んできた。


(……あたし)


 いったい今、どんな顔してるんだろう?

 恥ずかしいことになってない?



「……」

一舞
「……ごめ」


「………嫌か?」

一舞
「!」


 嫌か?と聞かれて咄嗟に首を横に振った。

 嫌じゃない。それは嘘じゃない。ただ、知らない感覚が怖いだけ。





 翔の顔を見れば、今まで見たことの無い、例えるなら泣き出してしまいそうな表情をしている。

 あたしもこんな顔になってるのかな…。


(っていうかホントに泣きそう…どうしよう…)



「………俺の気持ちを全部…伝えたいだけだから」

一舞
「…………」


「……怖い事なんか無い」

一舞
「……ん」

(…やっぱり、分っちゃうんだね)


 頷いたあたしに、やさしく唇を触れさせて…それはまるで、次に進むんだと予告してるみたい。


(もう、やめてはくれない…よね)


 そう理解したのと同時に…



「………やめないからな」


 予測通りの言葉。


一舞
「……………うん」


 小さく返した弱々しい自分の声。それだけでも充分恥ずかしいのに、思いのほか甘ったるくて。なんだか自分が自分じゃないみたいだ。



 受け入れるよと答えてしまったあたしは、もう引き下がれない。


 だからどうせなら、これ以上無い時間にしてあげたい。

 翔が幸せだと感じられるように…

 一緒に幸せになれるように…



 覚悟を決めたあたしの腕は、翔の背中を強く抱きしめていた。





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